2016年4月12日火曜日

ネット販売の自転車と中華カーボンのレプリカロードバイクの話

相変わらず「安いから」という理由でインターネットやオークションで自転車を買う方が多いです。

まずオークションで中古自転車を買う方にご注意頂きたいのは、それはあくまで中古自転車であるという事!

つまり自分の体格に合うようにセッティングをするところから始まって、不具合箇所の点検や消耗品の交換に至るまで、全て自己責任になるという事をご理解頂きたい。

悪質な出品者であれば、ジャンク品である事を一切伏せて出品することもあるので、フレームにクラック(ひび)が入っていたり、カーボンホイールのブレーキ当たり面が熱で変形していたり、修理や部品の交換だけでは絶対に直せないようなゴミを、知らずに落札してしまうリスクもあります。

もちろん希少価値の高い自転車フレームなど、乗らずに飾るだけっていう場合は、そのようなジャンク品であってもいいのでしょうが、特に希少価値も無いジャンクフレームを平気な顔で売っている人もいるので、是非注意して頂きたいのです。

そして中古で購入する以上はメーカー保証なんてものも当然存在しませんし、まして個人間の売買ともなれば尚更当然の事ですが、購入後に不具合があったから返品するだとか返金しろだとか、きっちり責任とって直してくれと言ったところで、現状の状態で納得して購入している以上クレームなんて通用しません。(ただし走行に致命的な支障がある事を知っていながら、その事実を伏せて販売する事は詐欺に当たります。)

そもそも中古車を購入の場合、これは自動車でも同じですが、車体の購入費用とは別にある程度の消耗部品交換費用等を見据えて、修理ありきでご予算を用意するのが当然だと思います。

ところで購入したその車体をメンテナンスや点検に出そうにも、自転車屋さんによってはネットで購入した自転車は、新車であっても修理やメンテナンスを断るところがあるそうです。

まあネットやオークションでの売買が横行されると、実店舗で商売しているものとしては営業妨害されているようなものですから、気持ちは解らなくもないです。

そういった事情からネットでの購入に関してはあまりオススメできません。

80~90%完成の状態で梱包され、自宅に届いた新車を「自分で組み立てて乗ってきました!」ってご来店頂いたお客様の自転車ですが・・・


何だかよくわからないブランドの・・・って言うかデ・ローザのロゴをパクッたような・・・

そんなロードバイクでしたが・・・

見ての通りフロントホイールとフォークのセンターが出ていません。

向かって右側にタイヤが寄って見えるのが判りますか?


とりあえずセンターゲージでホイールのセンターバランスを確認して、少々偏っている事が判明したので振れを取ります。

それでもまだフォークのセンターがずれていたので・・・


左側のエンドを0.3~0.5mm程度研磨してフォークセンターを整える。

次に後輪ですが・・・


これも左側と・・・


右側とでは隙間の幅が違います。(少し右に寄っています。)

前輪同様ホイールセンターの確認と振れ取りをして再び装着すると、今回はエンドを研磨しなくても真っ直ぐになりました。

ブレーキの当たり面もずれていたり、ブレーキレバーのタッチが手の大きさや握力に対して適正かどうか・・・

あとフロントディレーラーの取り付け位置がずれているのを整えたり・・・

サドルの角度や突き出し、ハンドルの角度など・・・

あれこれ修正して乗りやすく組み直すだけで少なくとも10000円はかかります。

それなら信頼できるメーカーの自転車を、きっちり組んだ状態で自転車屋さんで購入する方が、トータルの予算も大差ないし安心して乗れると思うんですよね。

ああ~でもあれだ!

大型量販店や、店舗が多すぎてスタッフのクオリティに格差が大きいような店舗の場合はこのようなところにご注意頂きたい。

大型量販店(自転車専門店も含む)の場合は、自社ブランドに限らずほぼ全ての車両を組み上げた状態で各店舗に入荷。

店舗では皮むき(梱包剤を剥がす作業)とハンドル起こし(トラックに積載する時はハンドルを90度真横に捻って車体と同じ向きに揃えている)、ブレーキの当たり調整とペダルの取り付け・・・

大凡その4工程しか施さない。

一度に30~50台とか、多い時は100台単位で作業をするので、スタッフ3~4人で流れ作業的にするのが通常。

皮むきをしながら塗装の不具合を見つけるお店もあれば、そのままのお店もあります。

ハンドル起こしも、人によって高さや角度がバラついているお店もあれば、ボルトの締め付けトルクもバラバラで、キングコングが締めたんか?と思うくらい固く締め過ぎているものもあれば、乗り出した瞬間に「すいません!ハンドルが急に曲がったんですけど?」って、購入したお客様が肝を冷やすようなユルユルの(或いは仮止めのまま作業を忘れていたような)車体もございます。

ブレーキの当たり調整も、尺度は人それぞれなところがあって・・・

片利き(またはセンターが狂っている)のままにしている場合や、ブレーキシューの高さの合わせ位置が明らかにおかしい車体もたまに見ます。

基本「音鳴きがしなければOK!」とか、「止まればOK!」で片付けられている部位なので・・・

音鳴きを無くす為、キャリパーブレーキにトーインを入れるのはいいが、入れ過ぎだろこれ?っていう車体もたまに見ます。

ペダルの取り付けは自転車屋として、できないとまずい箇所ではございますが・・・

意外と驚くような話も多いです。

まず金属の固着防止って意味も含めてペダルシャフトのネジ部分には、ちゃんとグリスを塗ってからクランクに取り付けるのが常識ですが、何も塗らずに付けているお店もあるそうです。

またこんな話もありました・・・

以前ロードに乗ったお客様が、市内のある老舗有名店でペダルを購入して付け換えてもらったら、ペダルが傾いて付いていてペダリング中に足首をこねられる感じになって、それで違う自転車屋で外してもらい改めて締め直そうとペダルシャフトを差し込んだら、クランク側のネジ穴がバカになっていて・・・それで今度は当店に何とかできないか?と持ってこられたのですが、リコイルでもしないと直せないような状態だったので、そのサイズに合うリコイルキットを購入して直すくらいなら新しいクランクを発注して付け直した方が安いって話で、交換したという事例です。

これも一度ネジ穴とペダルシャフトのネジの両方を、パーツクリーナー等でホコリや鉄粉を吹き飛ばして拭いた後、グリスを塗って締め込めば何も問題ない箇所なのですが、そういう処理もせずに締め込もうとすると、たまに傾いたままでも強引に締め込めてしまう場合があるんですね。

そういうのでクランクを駄目にしちゃったら、ロードの場合なんかは修理代が高くつきますよねぇ。

完成車でも稀に、そういう状態で売られているものがあるという事なので、特に大型店で車両を購入する際は、細部に渡ってチェックする必要があるかも知れません。

という訳でネット販売の自転車だと、それ以前の問題になる為、尚更の事『論外』という話で・・・

自転車屋を経営できるくらいの整備の腕前と専用工具が無ければ、手を出さない方が無難という結論になります。



そして話は変わりまして中華カーボンフレームの話になります。

先日ユル原君がピナレロのドグマF8らしきものに乗って来たので・・・

「あれ?また自転車変えたんか?」って聞いたら、「いや、中華カーボンです。」って・・・オイオイ!

丁度試乗会だったのでエヴァディオの犬塚さんもいて、「いやぁ、最近中華カーボンのフレームに乗って来る人が増えましたよねぇ~。」って、困ったような表情をされていて・・・

「いや・・・何が問題って、うちの元スタッフっていうのがね・・・もうちょっと世間体っていうものを考えてもらいたいというか。ハハハ・・・」(苦笑)

そう僕が答えたら・・・

エヴァディオさんも愛知県内でプロショップ『まるいち』を経営されているのですが、「うちの店だったらまず社長は激怒ですね!倫理観の無いスタッフや元スタッフは出禁にされますよ。」という辛辣なご意見を頂きました。

さすがに手厳しいですね。

まあ僕もユル原君には「倫理観が足りない!」と注意した事はございますが、今となってはスタッフではないので基本的に自由だと諦めています。

それに中華カーボンがどれ程のものか興味が無い訳でもありませんので・・・

「ちなみにその中華カーボンのF8はどうなの?」って聞いてみたところ・・・

「メッチャいいですよ!フェニックスより全然走りやすいっす。」との事。

なるほど・・・

「じゃあちょっと乗らせてもらってもいいかなぁ?」って聞いたらOKとの事だったので、僕もその中華カーボンバイクに乗ってみる事に・・・

確かにリドレーのフェニックスよりも断然良かったですね。

ユル原君の嬉しい気持ちはよく解りました。

しかし実際にサイクルモード大阪で、本物のドグマF8に試乗したばかりの僕からしたら、明らかに別物なのは乗った瞬間から判るレベルで・・・

よくネットオークションの出品ページを見ると「東レのT-1000を使用しています。」なんて宣伝文句を目にしますし、実際にユル原君が購入した中華カーボンフレームの説明にもそうあったそうですが・・・

T-1000は中国には出荷していないそうです。(日本の技術を盗まれない為に)

仮に東レのカーボンを使用していたとしても、T-700か・・・せいぜいT-800と思われます。

とはいえ実際にT-800を使用しているエヴァディオのヴィーナスRSと比べても、伝わってくる振動や、重量とか考えると・・・

この中華カーボンの『F8もどき』はどうしてもチープな乗り味に思えるのである。

カーボンのグレードが低い分、肉厚で剛性を稼いでいるような感触っていうのか・・・

まあ剛性は十分あったし、本物と比べなければ決して物は悪くない・・・

ちなみに本物のドグマF8はもっと軽やかだった。


写真は本物のドグマF8とクリストファ・フルーム選手ですが・・・

見た目はまさにこれ。

でも2015年のツール・ド・フランスで優勝した本物のドグマF8は、持っても乗っても軽いし、スピードの伸び方も違う。

所詮中華カーボンって事ではある。

しかしなのだ・・・

この中華カーボン・・・フレーム価格は本物の10%以下であるにも関わらず、乗った感覚としてはある大手メーカーのフラッグシップバイクとそっくりなのである。

「150万円出して”あれ”を買うくらいなら、フレーム価格6万円未満でこれだったら、誰だって中華カーボンで十分やんけ!って話になるよな~。」

全く嫌な話である。

ヴィトンやシャネルのバッグや財布でもそうだが、偽物を持ってでも見栄を張りたい人はいるかも知れない。

ユル原君の場合は買い換えたリドレー・フェニックスが口コミとか雑誌の評価とは裏腹に全然良くなかったっていう事実と、乗り換えるには資金も無いし、中華カーボンがヒンシュクを買うのは解っているが興味もあるってところが動機となって購入に至ったのであろう。

まあ気持ちは判らなくもないから、僕は『本物の良さを改めて理解する為の実験』という理由で、人柱として乗るのなら別にいいんじゃない?って思ったんです。

高校生でお金も無いのに、好奇心と所有欲だけは強いって年頃を考えたら致し方ないですしね。

それよりは中華カーボンに負けるようなフレームを作っているメーカーに言いたい!

「もっと頑張れ!」って。

そもそもカーボンフレームを満足に作る施設もないメーカーが、何でこぞってカーボンフレームをラインナップするのか、未だに理解し難い現実がこの業界にはある。

もちろんそれを言ってしまったら元も子もないので、あれなんですが・・・

そういえば、あるレプリカフレームを販売している出品内容にこんな文章がありました。

「そもそもブランドメーカーの約90%はカーボン工場なんて持っておらず中国人の工場にお願いして製作するんですが、ブランドのフレームエンジニアの殆どが中国工場監修にきて女あてがわれて女ずけにされます。それはそれはエロいです。同じ男ですから分ります。ここまで書いたら十分でしょう。全ての最高のテクノロジー、デザインはモロ横流れです。」(一部抜粋、原文まま)

中国語の文章を翻訳サイトで日本語に訳した感じの殴りな文章ですが、面白い話ですよね。

「それはそれはエロいです。」に目を奪われがちになりますが、まあそんな話も実際にあるのでしょうね。

委託でフレームを製作させている以上、闇が生じるのは致し方ないというか・・・

テクノロジーを横流しするエンジニアは最低ですが。

今の自転車業界はそういうカオスにまみれています。

業務委託とか、OEMとか・・・半分どうにも仕方のないところもございますが、せめて独自性だけは各メーカーに守って頂きたいというのが、自転車屋としてだけではなく、自転車乗りとしての本音ですね。

まあとりあえずメーカー保証って話もあるので、正規の商品を買って頂きたいのと、後ろめたくなるような商品には手を出さないで下さい!とだけ言わせて欲しいです。

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