2018年8月19日日曜日

穂高連峰日帰り縦走にチャレンジ!(第六話)北アルプス最高峰の奇跡


5:40スタート。

穂高岳山荘から奥穂高岳へ向かうひな壇に登る。

遠くでBさんが僕を見送っている。

僕もBさんの無事を祈りながら・・・ここからがいきなり強烈な登坂。


岐阜方面を見たらプロペラが・・・

昨日はこれの音と蜂の羽音が一緒に聞こえて、ずっと周辺を付きまとわれている恐怖で、それはもう気が狂いそうになりながら歩いていた訳です。

今は至って冷静。

まだ怠さは残っているけど、ほぼ高山病の症状は回復したと思う。

昨日・・・寝て起きては外に出て、フラフラと歩き回っていたのが良かったのかな?


もう少し写真撮影をしながらじっくりと登りたかったのに、ご夫婦で登られている登山者に「お先へどうぞ。」と道を譲られてしまい、今度は自分が邪魔になってはいけないのでプレッシャーを感じながら先に登る。

それもいきなり垂直の壁を登ったのだけど、上記のような思いが錯綜して一瞬パニックになってしまった。

ある程度登ったところでもう一度平常心へ・・・

ここから先は心にゆとりがないと即死亡に繋がる恐怖の道ですから。

譲ったり譲られたりって事も多くなるので、どっちに転んでも冷静に対応し、どのように登ったり下りたりするかも、あらかじめ左右の手足のどれから進めるかを瞬時にイメージしながら進まないといけない。


ここはいきなり50mくらいの岩壁を登る箇所なので、迷いは即事故につながる。

他の登山者にも迷惑がかかる可能性大なので、冷静かつ落石を発生させないよう慎重な足運びが必要。


覗き込んだら垂直だっていうのが判るでしょ?

それにしても濡れたハシゴが冷た過ぎて手がかじかんでしまいそうです。

ここで重大なミスに気づきました。

ラバー付きの手袋を忘れたのですが、福井か高山辺りで時間を惜しまずに購入しておくんだった!と後悔する。

この先雷雲が発生した場合を考えると・・・

ちなみにハシゴを登った辺りで標高は3000mを越えています。


序盤で注意すべきは2本のハシゴでも、その後の鎖場でもない。

この鎖場の壁を登った後のトラバースが最も緊張する。

道じゃなく壁から出っ張った岩に、手足を引っ掛けながら水平に移動するからである。


こうやって見たら一気に高度が上がったのを実感できます。

そして写真の〇や✕の印が密集している箇所が判りますか?

次に登ってきた方が通行を躊躇していますよね?

写真を拡大したら確認できますが、トラバースの箇所に限り10m程落下した付近にネットが張ってあり、そこから先への落下を防ぐようになっていました。

きっと過去にたくさんの登山者が滑落している箇所だと思います。

ネットも100%滑落を防げるものか怪しいところですが、確実に無いよりマシ!

そのくらい落ちたらひとたまりもないような場所でした。

この写真からでは落ちたらどうなるか想像できないと思いますが、実際にそこを通れば嫌でも判ります。

むしろまともな神経の持ち主だとそこを通過する事も敵わないと思います。

絶対に下を向いてはいけないような箇所。

縦走路に行けばそんな場所しかないし、山荘の傍と違ってセーフティネットも張っていません。

落ちたら死あるのみ!


岐阜県側の昨日僕が登ってきた斜面です。

よくこんなところを高山病でフラフラになりながら登ってきたなと、改めて思うと何だか笑えてきました。


ここから先はしばらく歩きやすくなっています。

雲の向こうに蒲田富士がうっすらと姿を現しました。

冬の奥穂高岳を岐阜県側から登る場合は、まずあの山を登って、涸沢岳経由で山荘を目指すそうです。

今の僕の知識と経験では、冬山の穂高連峰はまだまだ怖くて挑む勇気がありませんが。


どうなんだろう?

僕はまたここに戻ってくるんだろうか?(色々な意味で)

振り返って物思いに耽る。

標高3110mの涸沢岳の頂上が雲の切れ間から見えます。

恐らく今、僕も標高3100mに限りなく近い位置にいるんだと思います。


またガスってきました。

ここら辺は道がまた狭くなっているので、雑に歩くと踏み外して滑落します。

慌てずに登りましょう。

くどいようですがカメラはほぼ90度下に向けて撮影しています。


こうすれば判るかな?

この辺からは長野県側の斜面が切り立っています。

何度も説明させて頂きますが、今僕の歩いている稜線が長野県と岐阜県の県境です。


長野県側の雪渓です。

写真で見たらジャンプして飛び込みたくなるでしょ?


傾斜角は50度以上確実にありますから、スキー場のチャンピオンコースよりも遥かに、遥か~にヤバイという事をご理解下さい。

逆に言えばエベレストをスキーで滑った三浦雄一郎さんが、どれだけとんでもない超人なのかっていう事が嫌でも理解できる訳です。


これは南側・・・薄っすらと奥穂高岳の山頂が見えてきました。


岐阜県側は途方もないガレ場が広がっています。

仮にこれを真っすぐ新穂高に向けて下って行くとハイマツ林があって、その先でV字谷の崖を直下するはずです。

僕のように高山病になって判断力が低下した人の中には、前にも後ろにも進めなくなって、こんな斜面を降りようとして遭難したり滑落する人もいるんだそうです。

ドイツ・ライン川のローレライの伝説にも似たような話ですが、そうやって呼ばれちゃう人にならないよう、万全な体調と強い心を持って挑まないといけません。


山頂が更に近付いてきました!

あれが北アルプス最高峰の奥穂高岳です!

国内では富士山(標高3776m)と南アルプスの北岳(標高3193m)に次ぐ、3番目に高い山となります。


この後少し下って、最後の登りです。


山頂まであと少しのところで雲間が出来て、そこに光の輪のような虹が現れました。

しかも自分とその周りの山の影まで雲に映りこんでいました。

慌てて撮った写真なので、レンズが濡れていて失敗しちゃったのですが、これがブロッケン現象(ブロッケンの妖怪)って言うんですよね?

丁度真後ろから朝日に照らされていたので、タイミングよく投影されていたんでしょうね。

ちゃんと撮れていると思って確認しなかったのが失敗!

こんなチャンスにはなかなか出会えないのに、本当に勿体無いことをしてしまいました。


この看板はわりと大きいので、かなり遠くの方からも立っているのが確認出来ていました。

そしてここで次の奇跡が起こる!


急に風が出てきてドンドン雲が切れていく。

虹の輪(よく見たらブロッケン現象も確認出来る)がまだ残っている事よりも・・・

「うお~っ!ジャンダルムや~!ジャンダルムが見えたぞ~!」

僕の声に周りの登山者たちも一斉に西穂高方面を注目!

「うわぁ~!すごい~!」

みんな大興奮。

昨日縦走した人たちでさえ、曇っていて全体の姿を拝めなかったって愚痴をこぼしていたんだよ。


僕はあのジャンダルムで天使に会う為にここへ来たんです。

「もしかして行けるんじゃないの?」って希望が湧き・・・

とにかくめちゃくちゃ感動しました。


穂高岳山荘では「ここ数年、長期休暇をここの登山に費やしているけど、未だに晴れた絶景に出会った事がない。」と言っていた人もいたくらいなので、ここ数日の山の天候を考えても奇跡の瞬間だったと思います。

なぜ奇跡かというと、この数十分後・・・僕は嵐の真っただ中に突入するからなんです。


そしてとうとう奥穂高岳山頂に到着しました。

山荘からここまで、ヤマレコでは50分とありました。

個人的には30分以内で登りたかったのですが、写真撮影などしながらって考えたら、40分での到着はよく頑張った方だと思います。

赤い服のお兄さんと山頂のピンクのお姉さんはカップルですが・・・

あのお姉さん・・・挨拶もまともにしやがらないんです!(笑)

しかもキャピキャピと、観光地に興奮しているギャルそのもの!

実は「山頂を撮影したいんだから早くのけよ~!」と、ややイラつきながら撮った写真だったりする。(笑)


「おいおい!いつまでそこに腰かけてるんだよ!」

ただこのお姉さん・・・ただものじゃない!

このカップルは山荘からここまで、確実に30分ペースで歩いて来ているからなんです。

とても場違いに見える振舞いのお姉さんなのに・・・

何なんだあのスピード・・・(汗)

世の中にはおよそ想像のつかない事が起きたりするものだ。

「何なんだあのねえちゃん?標高3190mの岩場で走り回って・・・何であんなに軽やかなんだ?」

謎過ぎる。

僕は21歳の頃に乗鞍岳で、自転車のヒルクライムレースのコースを逆走して、ラストスパートをかけるポイントを研究する為に、標高2800m付近から標高2600m付近までランニングで走った事があるのですが、はっきり言って2~3km走っただけで死にそうになりましたよ。(笑)

当時有り余るほどにスタミナがあって、半永久なんじゃない?って思えるほどエネルギーに溢れていたはずの僕が。

標高2300mを超えたらもうそこは、空気の薄い別世界です。

あんなにキャピキャピと走り回られたんじゃ、ここまで命懸けで登ってきている人たちの気持ちとか立場とかがなぁ~。

そう思うとやり切れないですねぇ。(笑)


山頂の傍らからもう一度西穂高方面を確認する。

ここからジャンダルムまでは、『馬の背』と『ロバの耳』という・・・この界隈で最大級の難所が2つも待ち構えている。


また雲の切れ間が・・・


「あぁ~。やっぱり行きたいなぁ~。」

あの頂からの360度パノラマをこの手にする事。

そして天使に会う事。

これはもはや男のロマンです。


また雲が深くなってきた。

とりあえず奥穂高の山頂までは登ったけど・・・

これからどうする?

天候は雨だと聞いている。

恐らくあの雲の中も相当ヤバイと思う。

それでも西穂高まで縦走を強行する?

この時ですら風速10~20m/秒の風が吹いていたから、馬の背やロバの耳で更に風が強くなったら・・・

ジャンダルムも手を滑らせたら最後だからね。

他に西穂高方面に向かう人がいないか・・・いれば便乗しようか?

そんな事を考えながら迷い続けていた。

ではまた次回。

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