朝の走行会では、案の定、レース参加予定者の参加は無くて、何となく空港島を走りに行く。
参加者達は体調もさながら、自転車のセッティングなど・・・万全な状態で今日を迎えているのだろうか?
そんな事を心配し、ヤキモキしながら走っていたので、この日の朝の記憶が全く無い(苦笑)
通常・・・レースって土曜日に受付があって、日曜日の朝7~8時頃スタートっていうのが多いので、僕が現役で走っていた時は金曜日の22~23時頃にメンバーと合流して、自転車を車に積んで出発。
例えば長野県でレースの場合だと、恵那峡か駒ケ岳のSAで仮眠を取って、土曜日の早朝から移動して現地入り。
午前中には一度、自転車に乗ってコースを試走。
ただし試走と言ってもコースの下見ではなく、あくまで自転車のコンディションと、自分のコンディションを確認する事が優先!
そこで膝や太ももに違和感を感じるようなら、ストレッチをした後、その違和感を調整する為に午後にまた走り込む。
受付はその間、昼前くらいに済ませておいて、お昼ごはんは現地の名店巡り。
午後は自転車のセッティングを煮詰めて、走り込んだ後は温泉でゆっくり寛いで、チーム全員が大広間に集まってストレッチ教室を30分程する。
夕食後、また外湯に寛ぎに行って、また帰ってからストレッチ!
それから全員でユニフォームにゼッケンを取り付けし、不備が無いかを・・・これも全員で確認後、レースの作戦会議をする。
作戦会議はレースの内容によって異なるが、一人一人の脚質や、走力、昼間に走った時のタイムや回復の度合いを見て、大凡のパフォーマンスを想定した上で行われる。
就寝時間は21~0時と、人によってもバラバラですが、晩酌をして寝る人、興奮して寝れない人、色々いてました。
僕もよく落ち着かなくて朝4~5時頃まで寝れず、30分程度の仮眠でレースに臨むような日もありましたが、それでも自分のパフォーマンスを発揮できるコンディションを保っていました。
朝はまず、ホテルやペンション泊の場合は6時に朝食を食べます。少しでもレース開始時間までの短時間でエネルギーに変換させる必要があるからです。
野営の場合、僕は4時半起きでメンバーの分も朝食(パスタ)を作り、出来上がる頃にみんなを起こして、一人あたり300~400g程のパスタを詰め込ませ、5時頃には食べ終わるようにしていました。
これは炭水化物をスタート時間までに、大量のグリコーゲンに換えるタイミングを考慮しての時間です。
それから着替えて自転車のセンサーやゼッケンの取り付けなど、チームのメンバーで不備が無いかチェックし、それぞれのセッティングに合わせて空気圧も調整。
集合時間までは軽く2~3kmの距離を1~2本程度、軽くウォーミングアップで走る。
それから集合場所まで行って、オフィシャルカーへ荷物を預けて、自分の出走するクラスの列に加わる。
出来るだけ先頭か2列目・・・これは勝利を狙い行くなら鉄則。
スタートまでは、腹式呼吸とストレッチで精神と身体を落ち着かせる。
よ~くリラックスし、スタートラインに立ったら、周りを見渡して自分のスイッチを入れる。
「さぁ~て、今日は何人ぶっ殺してやろうか?」って、そのくらいの気迫を持たなきゃ積極的な走りはできない。
相手がどんなに格上の選手だったとしても関係ない。
自分の弱い心を上手くコントロールして騙さなきゃ、高みへは上がれない。
もちろんレースの最中はチームの仲間だけではなく、他の選手と協力する事もあるし、助けてもらう事だってある。
だから紳士である必要性はありますが、でも自分の前を走る奴らは全て敵でありターゲットなんです。
そのターゲットの人数を把握する為にも、スタートは前列でなくてはならないのです。
先頭集団にいなければレースの動きを把握できないし、反応が遅れる。
自分のパフォーマンスを発揮するチャンスも無いままレースを終えるほど、悔しくて情けないものはない。
だったらリタイアしてもいいから、チャンスと感じたらいつでも仕掛けるくらいの勇気と覚悟がなければ、当然の事だが勝利の女神が微笑んでくれるはずもない。
レースとはそういうものなんです。
そういう緊張感を楽しむというなら、確かにレースは楽しいでしょう。
僕も楽しかったか悔しかったかの、どちらかしか記憶にありません。
基本は食うか食われるかだと理解して下さい。
ところで今回のレースに関しては色々とイレギュラーが発生しました。
元々マサやんがレースに出ようか出まいか、ずっと迷っていたので・・・
「とりあえず何か出てみろよ!出るんだったら今回は俺が車を出してあげるから!」
って話で出場を決めたのが、今回の草津ナイトレース。
僕は昨年「なれるんだった、僕もプロレーサーを目指したい!」って言っていたマサやんに対して、「十分な素質がある!」と一緒に走ってみてそう感じたから、ずっと何とかしてあげようって思っていたんです。
しかし年明けから当店で仕事をしてもらいつつ、レースの勉強もさせようと思っていたのに、優柔不断なマサやんは、3ヶ月近くもスタッフになるという件について返事を返してくれなくて・・・
結局待ち続けた僕の方が精神的に疲れちゃったんですね。
本来なら今年は僕もレースに復帰するつもりでいたので、マサやんが加わり次第、走行会とは別にメニューを組んで個人的にトレーニングを一緒にする考えでいました。
そういった気持ちも3月末くらいには一度萎えてしまって・・・
その後ユル原君がメンバーに加わってから、マサやんも徐々に走行会に参加するようになって、ようやくレースに出る気持ちが復活してきた・・・と思ったら・・・
まずは手始めに、カテゴリーはとりあえずC5かC4くらいで手応えを感じてから、次回につなげればいいんじゃない?ってアドバイスしたのに、他のメンバーさんの煽りに押されて、あろう事かC2(一般参加の最上位クラス)にエントリーを決めてしまったのです!
そんな今回の草津ナイトレースに、一人で出場するのが不安だったのか、新たにトミーさんを参加メンバーに誘い入れて、その流れでK田様までもが誘われて参、加クラスの事もよく知らないまま参加するという事態が発生。
それについて僕が気になったのは・・・
今回マサやんを草津まで運び、サポートをするって事は確かに約束をしました。
その際に親方も「基本的に応援に行く方向性である!」とは言っていました。(僕の車に同乗するのかどうかは未定でしたが。)
しかしK南様やH川様も応援に行くって話になっているし、当日当店が暇なら、ユル原君をサポートで連れて行き、現地の空気だけでも味わせて、そろそろレースに向けての勉強をさせておいてもいいかなぁ~って考えた場合、車が2台必要になる事は明白。
その場合親方が車を出すのだろうか?
その辺の話し合いも無くあやふやな状態で、トミーさんとK田様を巻き込んでしまったマサやんに対して、僕の思いとしては「いやいや勝手に誘うのはいいけど、レースはエントリー料さえ払えばいい訳じゃないんだよ?現地までの足はどうするの?誰が3人を乗せて行くの?交通費は全員で清算するの?親方はどう言っているの?」って・・・
何この一人歩き感?っていう感じで、マサやんの感覚が理解できない僕がいました。
確かにトミーさんもK田様も大人なので、車を持っていれば出すでしょうし、無くても何とかするんでしょう。マサやんの感覚ではそうだったのかも知れません。
でも人をレースに誘うんだったら、最後まで面倒見て欲しかったなぁ。
決定する前に「店長!2人も誘っていいですよね?その場合って移動手段どうしましょうか?」って相談してくれていたなら、僕は親方やH川様にでも相談することができましたし、そうすれば後々モヤモヤする事も無く、何一つ問題なかった事だろうと考えています。
少なくともこの時点で、僕の車で行くって決まっていたマサやんが、僕に無許可で勝手に決めていいはずがないって事は、話の流れさえ解れば誰でも理解できるはずです。
トミーさんやK田様はしまなみを一緒に走った同志でもあるので、僕としてはどうにかして差し上げたいところですが、マサやんからその事についてどうしましょう?って相談を振って来るまでは勝手に決めるつもりはありませんでした。
なので、H川様から「店長、もし必要だったら私も車を出しますから言って下さい!」って申し出があった時も、すぐにお願いするのではなく、「もしかしたらお願いするかも知れませんが、とりあえず返事はギリギリまで待って下さい!」と伝えておりました。
というのもある時、親方がマイカーにリアサイクルキャリアを乗せて来店し、マサやんの自転車を積んで確認を取っていたので、僕の知らないところでマサやんと親方が結託しているんじゃないかと思い始めて・・・
「なんかもう俺って必要ないんじゃないの?」とさえ思うようになって、ものすごく複雑な気持ちになっていました。
そしてそんな最中にとんでもない事件が発生!
あろう事かユル原君が、バイトのシフトを反故にして、草津ナイトレースにエントリーしていたという事実が判明!!
僕と留美さんがしまなみ海道へ行っている間、お店はタケやんとユル原君の2人で頑張っていたのですが・・・
その様子を見に多くの常連メンバーさんが来店頂いたのは、非常に感謝しているのです。
しかし・・・
いくらユル原君がレースに出たがっているからといって、それを周りの大人がはやし立てるのってねぇ・・・
まあマサやんにしてみたらユル原君は絶好の発射台に使える訳で、抱き込みたい気持ちも解らなくはない。
ユル原君が高2の夏休みって条件を考えたら、来年は受験でレースも出れそうもないし、今が最後のチャンスじゃないのか?だったら出してあげようよ!って親心も解らなくもない。
しかし僕はユル原君には以前「君にはまだレースは早い。」と伝えていたし、その理由も半分だけ伝えていました。
まだ集団走行もままならない危ういライディングをする子が、レースなんて出場して事故でも起こしたら大変だし・・・
戦略云々も含めて、じっくり勉強してから出た方が、レースで学ぶ内容も変わってくるのだが・・・それ以前にまだメンテナンスも半人前で、レースの知識や・・・自転車そのものの知識も中途半端な状態で、出場なんてして欲しくないから・・・
まずは当店での仕事を一人前にこなせるようになってから次へ進めよ!っていうのが僕の伝えた理由。
そしてもう半分の理由は、ユル原君は来年受験生だから、タイミング的に今レースの味を知るべきではない!というのが本音。
今レースの味を知って、来年春まで情熱を燃やしたとしても、受験が迫ってくるとそれどころでなくなる。
約1年を自転車から離れて過ごした結果、また振り出しからやり直し!ってなった場合に燃え尽き症候群になる場合がある。
同様に高校生や大学生が学連に登録して走る事にも、僕は異論を唱える。
お金があるならいい。しかし限られた予算と時間しかない学生が、年間に10戦、20戦とレースにでて成績を残さないとクラスを上げられ(維持でき)ないというのも問題で・・・
毎回のエントリー料や遠征費を計算していたら、物理的に金持ちじゃないと無理だろ?って思いませんか?
僕が大学生の頃はそれができないから、調整のレースは費用のかからないレースやローカルなレースに出て、狙っている大きな大会のみコストをかけて、力を発揮できるようにスケジュールを絞って年間5~7試合に留めていました。
それでも目立つ走りさえすれば、何かしら気にかけてくれるスポンサーは現れるものですし・・・。
まあ僕はある企業に「学連に登録もしてない、どこの馬の骨とも判らない小僧。」と言われて、「あんな会社、ぶっ潰してやる!」って気持ちで走っていた事もあって、尚更のこと登録選手って括りに、疑問や怒りを持っているのも確かです。
その成績の数字だけで評価されて、結局本質的な素質とかを見落すケースだってあるはずだ。
学歴とか成績とか表面的な建前でしか評価してくれない環境にいると、余程の覚悟でもない限りプロにはなれません。
両親や家族が全面的に応援してくれる家庭はまだしも、僕の場合は両親がいなかったので、僕が海外に行っちゃうと、誰も祖母の面倒を看てくれないっていうのもあって・・・
普段は当時のスポンサーが倒産して資金不足になったと言い訳していますが、本当は僕に覚悟を決める勇気が無かったのが、プロになる夢を実現できなかった原因です。
そういう意味ではマサやんは3人兄弟の末っ子で、今まさに進路がフリーなので融通は利く!
そう考えたらプロを目指すのには最高の条件を持っている訳なので、その上十分な素質がある事を考えたら、今すぐ上を目指して走るしかないだろ?って思うじゃないですか?
逆にユル原君はまだ17歳で、進路もはっきりイメージできていない状態。そうなると学生の本分である学業を頑張りつつ、自転車は楽しく気分転換程度に乗って、体力の低下だけを防いでおくっていうのがベストだと思うんですよ。
だから「君にレースはまだ早い!」って伝えておいたはずなんです。
しかし周りの大人が「今しかチャンス無いねんから思い切ってエントリーしてしまえ!」とか、「エントリーしてしまったもん勝ちやで!もう払うもん払ってんから行ってもいいでしょ?って言えるやろ?」といった具合に、まだちゃんとした判断のできない高校生を、その気にさせてしまった訳なんですね。
レースの3日前K南様から、「できたら今後ユル原君にもレースに出る機会を与えてあげて下さい!」と頼まれて、その夜に食事をした後、「特別に一度だけレースに出る許可をあげるから、これからエントリーできるレースを調べておきなさい。」と言った瞬間、怪しい挙動を取ったので、「ん?まさかとは思うけど・・・お前草津にエントリーしたんじゃないやろうな?」って聞いたら・・・
「あ・・・はい・・すみません。実は・・・」
「はあ・・・やっぱり・・・気にはなっていたんやけどね。あのさぁ~お前・・・それって仕事のシフトについてどう考えていんねん?」
「いや・・・あの・・・」
「それじゃ話にならんやろ!もしお店が忙しくなっていたとしても、お前はレースに出たいし、俺はサポートで出ないとあかんし・・・そうなったら店は一体どうするねん?」
せっかくK南様のご好意で、僕も自分の考え方を改め、一度だけレース出場を許してあげようって思った瞬間、事後報告・・・それもこっちから気付いて確かめて発覚とか・・・
「それはないわ~。」って、すごく悲しい気分になりました。
それでも夏休みのレースでエントリーが間に合うレースって、他にはもう無いと思ったので・・・
「わかった。ユル原!今回は特別に出場を許そう。しかし、当日までその事は他言無用やで!誰に聞かれても”まだ店長に確認取っていません!”って応えるようにしなさい。」
そしてこうなると面倒なのが・・・当日の出発も僕だけわざと遅らせて、こっそりユル原君を乗せて現地に向かわなければならない。
それが店のシフトの事を無視して、ユル原君を参加するように勧めたメンバーさんに対する、僕のせめてもの抵抗です。
そして自分の意思で判断して決断できなかった上に、就業規約を破ったユル原君に対してはペナルティを課す事も伝えました。
これによって気持ち悪くなったのは、実質マサやんを僕の車で運んであげられなくなったという事。
事実、後になって「元々マサやんは店長が運ぶって話やったんちゃうの?」っていう愚痴が、どこからか出ているって話を耳にしたので、「はあ・・・色々悪循環や~!人の気も知らないでちくしょ~!」って感じで、本当に悔しかったんです。
そしてヒデさんも応援に行ってくれるって話になったので、結局はH川様にも車を出してもらうことになり・・・
当日は車が計3台で、参加者及び応援メンバー合わせて、9名が草津に行く事になりました。
僕の心境はとにかく複雑そのものでした。
マサやんには勝って欲しいけど、今回彼の為だけに協力しようと思っていた内容なのに、参加者を事前の相談も無く増やした事や、移動交通費などを彼がどんな気持ちで捉えているのか・・・それを思うと複雑で堪らない。
その上C2クラスに出走って・・・
確かにマサやんのポテンシャルならC2でも通じるとは思うけど、如何せん集団走行の経験が浅いっていうのが難点。
しかもC2はC1(登録選手のクラス)と同時スタートなので、C1のみ与えられたクリテリウム式のルールに振り回されて、終始強弱の強いレースになる可能性大!
無様な負け方をした場合は自走で帰るって約束までしているので、マサやんの自走で帰宅の可能性はかなり高いと言っていい。
しかしそれを自転車レースの経験のない第3者が、「どうせ負けるに決まってんねんから、それやったら上のクラスで走って散ったらええねん!」って言う事も、「それってどうなん?」って感じる要素であって・・・
僕はC6とは言わないけど、C5かC4くらいで・・・とりあえず1位になる事がそんなに簡単ではない事、そしてあと少しで勝てたのに、そのあと少しがなぜ、どうにも出来なかったのかを、手応えを感じつつも反省し、次のレースに向けてシミュレーションできるような結果を出して欲しいので・・・
それにはC2というカテゴリーは、余りにハイレベルなんです!
そこに来てトミーさん、K田様、ユル原君・・・全員C2の道連れ。
一番『初めてのレース』で心を折られて欲しくないユル原君を、そのクラスで走らせる事のリスク・・・
全て自分の思惑とは大きくかけ離れていました。
僕は過去の『TEAM EURO』をチームらしいチームに育てるのに5年かかりました。
当時まだ19歳だった僕が海外のレースを研究して、あれこれ試行錯誤して20代や30代のメンバーを束ねて・・・それは一介の学生にとっては長い道のりでした。
しかしそういった当時の経験がある僕には、一人一人がチームの一員として自覚し、協力してくれるのであれば、3年で強いチームに出来る自信があります。
しかしそれには僕一人の努力や思惑だけではどうにも出来ないんです。
メンバーが僕の采配を理解し、信じてくれない事には叶わないでしょう。
僕が今最も望んでいるのはチームワーク。
今回、既にチームワークを大幅に無視した状況が立て続いている中、果たして『TEAM EURO』としてのデビュー戦、一体どうなるのだろうか?
そんな複雑で不安を抱えた状態で、僕は草津へと向かうのでありました。
また次回・・・
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