通常天候が荒れ気味ならライチョウが出てきて、その辺を散歩していてもおかしくない。
しかし何もいないし気配すらない。
道はますます視界が狭くなってきて、中岳までの距離もまともに掴めない。
初めて歩く道というのは、視界が無いだけでこうも不安なものなのだろうか?
頭の中には地図が入っているけど、紙面上の上での記憶だからリアルな目印が判らない。
今から天狗原経由で下山をするというグループに道を譲ったのだけど、「そういえば南岳小屋も年内の営業を終えたんだってねぇ~。」と会話しながら歩いて行った。
メガネが真っ白で、足場を確かめながら歩いている僕は一瞬何の話か気付かず、歩く事に全集中していた訳ですが・・・
この〇×だらけの岩場の坂道を下りながら「そういえばさっきの人たち、何かやべぇ事を言ってなかったか?南岳小屋が年内の営業終了とか・・・えっ?南岳小屋が終了~っ?」
とんでもない話を聞き流していた自分の判断力の低下や余裕の無さにも驚いたが、その話が本当だったら・・・僕がこの先に進む事自体が自殺行為。
完全に死亡フラグじゃないか?
ここでスマホの電波が繋がれば調べれたはず。
しかし電波は途切れ途切れで、ガラホの時ほど繋がりは良くない。
しかも昨夜12%まで低下していたスマホの電池残量は、槍ヶ岳山荘で充電してようやく60%強の状態である。(電気の貴重な山小屋では30分程度しか充電させてもらえないのです。)
下手にネットを接続すれば電池が急激に減ってしまう。
そうすると写真も撮れなくなるし、万が一の緊急時に電話が使えないリスクも高まる。
南岳まで行くだけ行って真相を確かめるか?
この天候であとどのくらい歩けば辿り着けるだろう?
とりあえず登り返しに差し掛かったのが7:32だったので、中岳の山頂(標高3084m)には7:40頃には着くかも知れない・・・しかし思いのほか岩稜帯のアップダウンで足の裏と膝への衝撃が強く、万が一引き返す話になった場合、ここをまた歩いて戻るのか?と思うと気が遠くなってきた。
槍ヶ岳山荘~中岳と、中岳~南岳小屋の歩行時間はほぼ同じなので、この調子で行けば南岳小屋には8:45前後に到着予定。
天候と脚のコンディション、それにメガネ&スパッツのストレスを考えたら、標準タイムより少し速いペースなので恐ろしく順調に歩いてきた訳だけど、最悪南岳で撤退を判断した場合、天狗原から上高地へ下山するの?
その場合分岐から天狗のコルまでの下りは、鎖場や梯子が点在していて楽しい岩稜帯だけど、そこから天狗池までの下りで足に来るって、山荘で話をしていた時に誰かが言っていたのを思い出す。
まあ足に来るのはどの道で下っても同じだから良いとしても、せっかく天狗原経由で下山しても天狗池に映る逆さ槍が拝めないんだったら行く意味が無い。
それで虚しく上高地まで5時間以上かけて下山できる?
槍沢ロッヂまで全く補給なしで行けるかな?
行けたとしてもメッチャつまらなそう・・・。
では槍ヶ岳山荘まで戻ったとする。
その場合槍ヶ岳山荘への到着は11時頃と思われる。
そこで昼食を食べて下山するとなれば、上高地ヘはノンストップで歩いても到着は16時半以降になるので、ギリギリ可能だけどクマと遭遇のリスクは高くなる。(本来標準タイムが7時間15分のところですが、あくまでこれも5時間程度で下れると仮定しての予想タイムだから、足の痛み次第では遅れる可能性は高い。)
翌日の天候が回復するなら、もう一泊して槍ヶ岳の山頂に立つのもありかも知れないが、回復・・・するのだろうか?
新穂高温泉へ下山するルートはどうだろう?
飛騨乗越分岐から新穂高登山口までは下山の標準タイム7時間とあり、上高地よりはやや早く到着できそうだが・・・。
因みに南岳小屋から新穂高に下山するルートも存在するが、槍平小屋まで下山する南岳新道は鎖場の鎖が千切れている箇所があったり、崩落箇所が点在するっていうのを今年の8月に書かれたレポートで知っていました。
登りは行けても下山での使用は熟練者でも危険だからおススメしないと書かれていたので、そこへは行くべきではないと考えている。
元々南岳新道は眺望を楽しめる区間も短く、難易度だけは槍穂高連峰の中でも屈指の危険なルートらしいので、興味はあるけど・・・今回はさすがに行こうと思わない。
それでは最後に強行して大キレットに向かった場合どうなるか?
南岳から一気に標高差250mの断崖絶壁を下降するところから始まる。
長い鉄梯子や岩壁を這うように進むトラバースなど、風の強い時に行くには危険極まりない下り。
そこさえ下り切ったら長谷川ピークまでは危険個所は無いと言われているが、濃霧と暴風でそれがどの程度まで危険じゃないのかも判らない。
南岳を下ったら、今の自分のコンディションと気力だともう引き返せない。
一か八かの賭けになる。
それに南岳小屋が本当に閉まっていた場合、難所➀『長谷川ピーク』を越えるまでは何とか気力と集中力が持ったとしても、北穂高小屋までの標高差350mの登り返しで水分補給ができないのは死活問題。
更に難所②の『飛騨泣き』はオーバーハングした岩場を登ってから、道幅10~20cm程の岩のとっかかりをトラバースし、とっかかりすらない所は鉄の杭を打ち込んでいたりするのだけど、雨の時はそれが滑りやすいので例年滑落事故が絶えない箇所と云われている。
飛騨泣きを無事にクリアしても、北穂高小屋までの登り返しは落石の多い危険地帯なので、雨と風の強い日は特に危険と云われている。
僕は中岳の登り返しを前にして、何が正しいのか判断できなくてただただ困惑、混乱。
今なら冷静に判断できる。
南岳まで行って最終決断し、一番リスクが低いルートは天狗原経由からの槍沢下山ルートである。
判断力があやふやになってきた僕はそこでUターンし撤退を選んだ。
槍ヶ岳山頂に立てなかった事や、大喰岳山頂をうっかりスルーした事に加えて、南岳小屋が終了しているという噂を耳にしてしまった事で、僕の中のモチベーションが一気に崩れてしまったのである。
「俺・・・ここへ何しに来たんだろう?」
そんな虚無感に襲われていた。
まるで昨年の悪夢の再来だ。
補給食やドリンクの事といい、南岳小屋の情報といい、事前準備がお粗末だった事が原因だと解っているから、尚更の事・・・自分が許せなくて、辛くて溜まらない!
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