空は曇っているけど奥穂高岳の雄姿はハッキリ見えました!
河童橋のワイヤーの曲線と重なるように、奥穂高岳~前穂高岳を結ぶ吊尾根の曲線が美しい。
上高地バスターミナルで急いで登山届を書いて提出して、売店で並ぶ事10分。
やっと購入した朝ごはんの焼きそばと非常食のおむすびです。
おむすびはザックに入れて、穂高を眺めながら朝食タイム。
そして五千尺ホテルの横にある給水所でハイドレーションに1.2ℓの水を汲む。
ハイドレーションは2ℓ入るのだけど、敢えて1.2ℓにしている理由・・・。
僕の経験上、ハイドレーションの水は標高差100mにつき100㎖が目安である。
上高地から槍ヶ岳山荘のある『槍の肩』までは標高差1580mある。
歩く距離も20km以上あるので、余裕を見たら2ℓでも少ないくらいである。
それを敢えて1.2ℓ。
槍沢のグリーンバンドと呼ばれるポイントがある。
その手前に最後の水場があるのだけど、そこに行くまでにも水場はあるっぽいので、最悪水が尽きたらそこで汲めばいいと考えていました。
それに沢山背負って重くなるだけで、水が温くなったら飲みにくくなるので、こまめにフレッシュな水を汲んだ方が良いという判断。
後はペットボトルでポカリかソルティライチ系のドリンクとお茶を1本ずつ持っておけば大丈夫かな?って算段でした。
何より槍ヶ岳までの槍沢ルートには、明神館~徳沢園~横尾山荘~槍沢ロッヂ~殺生ヒュッテと、ルート上に5ヶ所も山小屋が存在するので、荷物を軽くしていても補給のマネジメントは何とかなる。
ところが下界と同じ価格でドリンクが買える限界ポイントでもある、この河童橋前でペットボトルを買おうと思ったら、ものすごく乱暴な運転で自販機の補充をする車が、僕と自販機の間に割って入る。
そしてものすごい勢いで補充が始まった・・・。
素早く効率よく作業がしたい気持ちは解るけど、僕は今買おうとしていたところを乱暴な運転に慌てて飛び退いたんだよ。
これでここでドリンクを買う気持ちが削がれる。
僕のこういった性格と、この時の判断が後にとんでもない事態へと発展する。
次々に入山していく登山者を横目に、いつまでもゆっくりしていられない気持ちも働き、僕もストックの準備をし意を決してスタートする(7:35)
8月から頻繁にクマの目撃がされている小梨平のテント場です。
異様なほどにクマ鈴が森の中をこだましています。
今年はクマの出没が多いので、誰もがクマ鈴をぶら下げて歩いているのでしょう。
僕は敢えてクマ鈴を収納しました。
富山県ではクマが積極的に人を狙ってくるという現象が起こっているので、同じ北アルプスである以上は油断ができません。
この界隈のクマにも乱暴で積極的に人の食べ物を狙ってくるクマがいたって別段不思議な事ではないのです。
勿論催涙スプレー等クマ用の武器も装備しています。
すぐにケースから出してロックを外し、発射する訓練もしています。
バッタリ出くわさない限りは準備までの2秒程度の時間は作れるはずですし、バッタリ出くわした場合の奥の手も持っています。
むしろクマが出てきたらどうしよう?って事よりも、登山客が多過ぎる事が問題。
2~4人のパーティーも多いが、5人以上の大人数もかなりいて、とにかく広がって歩く人が多い。
大学生サークルのグループ等は特にそういった傾向が顕著で、止まる時も道の真ん中で団子になるから邪魔で仕方が無い。
しっかりと統制の取れたグループなら1列かせいぜい2列で綺麗に並んで歩く。
止まる時も道端に沿って1列か、団子になって集まるにしても、邪魔にならない場所を見つけて、そこで集まるのがマナーであり、暗黙のルールだ。
そんなことは幼稚園や小学校の遠足でも実践する事だし、例えばスキースクールでもそれができていないスクールはレベルが低いとバカにされるくらいの初歩中の初歩である。
左手に明神岳を眺めながら溜息しか出ない。
上高地から明神の区間は挨拶するにも及ばない登山客やハイカーの率が半端なかった。
8:06 明神館に着いたが、目の前のベテランっぽいご婦人たち・・・
3人が道一杯に拡がってくっちゃべりながら歩いている。
気持ちは解らなくもないが、道は広くないし、他にもたくさんの登山客は歩いている。
登りやすくて最小限の装備で槍穂高に挑める、初心者向きの登山ルートのほとんどがこの道を起点に広がっているので、致し方ない現象ではあるのだけど・・・
毎回煩わしさが増しているような気がしてならない。
例年なら中国系の観光客も多いこの界隈。
彼らの方が挨拶も積極的にしてくれるし、拡がって歩くことが少ないので、こちらも安心して歩けたりする。
この日は河童橋から横尾まで標準コースタイム3時間のところを、いつもなら2時間で歩くのだけど、後半の余力を残す為に10%増しの2時間12分程度で歩く予定でした。
しかし明神館まで標準タイムが50分のところを31分で通過してしまい、ペースを抑えないとならなかったのですが・・・
大人数のグループが軒並み明神館で休憩を始めたものですから、「これは今のうちに進め!って意味なんじゃないの?」と思い、またしてもペットボトルを買わずに通過してしまった。
ここまで来たら徳澤園はもう目の前である。
8:38 徳澤園を通過!
人が多過ぎて休む気になれなかった。
これで僕のライフ(補給)が一つ失われる。
なんだかんだで大人数のグループをパスする時などは、「お先に失礼しま~す!」と大声で叫びつつ走って抜いて行くので、ゆっくり歩くどころか、まあまあのハイペースで進んでいます。
登り坂はストックワークを駆使して脚の負担を補助。
下り坂は足の裏を地面に擦らないギリギリで、素早く送り足。
そうする事で着地の瞬間の衝撃を半分以下に抑える事ができる。
走る際はダメージの蓄積を最小限に抑える為の工夫を徹底的に駆使しています。
さすがにまずいと思ってここで小休止を取る。
距離的にはここが中間地点。
ここまで一切の補給も無く歩いてきたので、缶のポカリスエット350㎖(250円)を飲む。
「美味ぇ~っ!」
一時の幸せに浸っていたら3人組のオヤジさんが隣と正面に腰掛ける。
僕が自転車用のヘルメットをザックにぶら下げているのが気になって、道中で僕が抜いて行くのを見た時から声を掛けたかったんだそうです。
「自転車のヘルメットってダクトが多いから涼しそうで良いよね!」
「登山用ヘルメットじゃなくても使えるんで重宝しますよ!」
そんな何気ない会話から始まって・・・
「どこからお越しで?」
「僕は神戸からですよ!皆さんは?」
「実は我々はここまでの道中で知り合っただけで、それぞれバラバラなんやけど、私は和歌山から来ました。」
そしてこのオヤジさんからは行動食の柿ピーを両手いっぱいに頂く。(これは嬉しかった)
「皆さんは今日はどこまで登るんですか?」
「私とこちらの彼は涸沢までです。お兄さんは槍ですか?」
「はい!僕は槍ヶ岳まで今日中に登る予定です。」
「じゃあこっちの彼と一緒に行ったらどう?彼も槍を目指してるらしいよ!」
「いやいや、僕はババ平でテン泊なのでゆっくりですから、気にせず先に行って下さい。」
結局ここで35分も休憩してしまい、9時54分に横尾を出発。
それなら横尾山荘で名物の豚スタミナ丼を食べて行くんだったと後々に後悔。
横尾でほとんどの登山客は涸沢カール方面へ行ったので、ここから狭くて鬱蒼とした森の中を歩くのだけど、人口密度は劇的に減って・・・爽やかな空気を満喫しながら歩ける。
ただし槍ヶ岳山荘を目指す人たちは皆さん歩くスピードが尋常じゃなく速いので、ここからは同じくらいのペースで歩く人も多く、ペースコントロールがしにくい。
前を歩く人が後ろを気にしていると感じたら、結局走って抜かないとならなかったり、やはり同じペースで後ろを歩かれるのって気持ち悪かったりするので、今度は引きちぎろうと更にペースを上げてしまう心理状態に陥る訳で・・・とにかく悪循環。
こういうマイナスイオンが点在しているのに心落ち着かない。
以前にもチラッと話した事があるかも知れませんが、僕は根っからのレーサー(アドレナリン)気質です。
幼稚園~小学生の頃はカール・ルイスに憧れて陸上選手になるのが夢でした。
中学~高校を卒業するまではアラン・プロストや中嶋悟に憧れてF-1レーサーになるのが夢でした。
当時はオンボードカメラの画像を何度も見ているうちに、モナコと鈴鹿は目を瞑っていても走れるって思えるくらい、プロストのブレーキタイミングやシフトタイミング、走行ラインをインプットしていました。
スポーツはボクシングや空手などの格闘技の傍ら、陸上競技や野球、サッカーをやっていたのですが、サッカーはすぐに熱くなる性格だった事もあってペナルティカードの常習犯でした。
カーレースの道へ入る事を諦め自転車のロードレースを始めた時も、クリテリウムレースなどでは周りの殺伐とした空気に飲まれないよう、スタートラインに立った瞬間からスイッチが入って殺気を放出していたと思います。
こればかりはいくら人間が丸くなったところで、そうそう本質が変わる訳でも無く・・・
今でも信号待ちで車の隙間を縫って停止線の前へ出て来る行儀の悪いバイクとか、落ち着きなくじりじりとクリープ現象で前へ進む車とかがいると、こっちまでイライラして思わずアクセルを煽ってマフラーを空吹かしして威嚇しまう悪い癖がある。
『停止線=スタートライン』
この感覚は本能に沁み付いているので、きっと死ぬまで抜けない感覚だと思う。
青信号に変わった瞬間、0.2秒でアクセルを踏んで発進・・・
別に飛ばす訳でも無いし、特別急いでいる訳ではないけど、先頭がもたつくと後方に並んだ車が迷惑するので、速やかにスタートするのが当然だと思っている。(勿論安全確認は怠らない)
この反射神経が鈍ったら自分は終わりだと思っているので、これだけは譲れない。
なので出勤時に信号が変わってもすぐに発進しない先頭車両とかがいると、非常にストレスを感じる。
青に変わってから理由もなく0.3秒以上経ってもスタートしないとか、自分の中では絶対に許せない事。(あくまで自分に置き換えて考えた場合の話ですが)
『無駄のないライン取りが命』
必ずしも最短距離とイコールではないけれど、スピードや勢いを殺さないレコードラインというものがサーキットにも人生にもあると思う。
それを邪魔される事がストレスにならない訳ないですよね?
また少し緩~く考えたとして、車でも自転車でも車体に負担をかけない走りっていうものもあるので、時には気持ちよく走るライン取りっていうものが存在したって良い訳です。
それは歩いていても一緒。
僕には空間上に自分の理想のラインが見えているので、集中力が研ぎ澄まされている時等はついスイッチが入ってしまい、邪魔をする全てのものにストレスを感じてしまいます。
だから一瞬でも自分のタイミングでドリンクが買えないと思ったら、瞬時に諦めて次を目指して気持ちを切り替えてしまう。(コンマ1秒すら無駄にしたくない心理に陥る)
このレーサー気質の面倒臭い本能が今回、悉く自分の思惑と逆に働いてしまい、自分自身を窮地に追い込んでしまう事になっていく。
ここは槍見河原。
鬱蒼と茂っているから判りにくいかも知れませんが、向こうの木に重なって槍の穂先が見えています。
『槍の穂先』とは主に山頂部分の『大槍』と呼ばれる部分を指します。
実は槍ヶ岳登山・・・槍沢ルートからはグリーンバンドを越えるまで、ほぼ槍ヶ岳の姿を拝むことができません!
北アルプスのどこから見てもその存在が判ると言われる、シンボル的な山であるにも関わらず、いざ登ろうとするとその姿を簡単には見せてもらえないという、非常にサディスティックな山である。(笑)
間も無く『一ノ俣』を通過。
さすが梓川の水は美しいターコイズブルーである!
この美しい梓川の源流域を辿るように歩くのが、この槍沢ルートの魅力でもあります。
所々倒木や落石による登山道の崩落個所もあったりで、ドキドキしながら歩く区間も存在します。
そして『二ノ俣』の橋を渡ります。
梓川の水はとても冷たい。
既に汗だくの身としては、川で水浴びでもしたい気分だが、ここの水は心臓に悪い。(笑)
気温はこの時点で13度くらいだったと思うが、長袖Tシャツとフリースでも暑く感じる。
このペースで汗をかき続けるのは危険だと本能では判っていたけれど・・・。
またいつもの癖で歩きながらでもイワナが泳いでいないか見てしまう。
美味しいイワナの塩焼きと、クマの肉が食べたい。
10:54
槍沢ロッヂに到着!
横尾山荘からここまで通常1時間40分のところを1時間で歩いてしまった。
河童橋からの休憩時間を省いたタイムは2時間44分。
コースタイムの30%未満で歩くTJAR王者の望月さんと比べたら倍程の時間はかかっていますが、今の自分には普通に飛ばし過ぎだと感じていました。
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