寝床でガクガク震えていたのに、気が付いたらそのまま眠りに入っていた。
17:00丁度・・・
「はっ!いけねぇ!今何時?山頂はまだ登れる?」
思い出したように慌てて飛び起きた。
しかし想像以上に身体のダメージが大きくてすぐに立ち上がれない。
すると館内放送がかかり「夕食の準備ができました・・・。」と案内が放送される。
いずれにしても立ち上がらなければならないと、軋む身体に鞭を打つ気持ちでロフトから硬くて冷たい木製の梯子を伝って通路へ降りる。
木製の梯子が冷たいのは隙間風のせいだ。
梯子が冷たくて足の裏が攣りそうになる。
西館から本館に移動する際に少し階段を登って、それから別の階段で1階に下りる。
ロビーに行くまでにも脚の苦痛に耐えながら、1歩1歩が試練。
しかも食堂は更に地下まで階段を下りる。
「もう階段なんて歩きたくないよ~!」って内心ではそう叫んでいる。
上の写真はそんな時に地下へ降りる階段の窓から撮影した『夕日に染まる槍ヶ岳』です。
槍ヶ岳山荘の食堂では横一列のテーブルに並んで座ります。
料理はコロナの影響かも知りませんが山荘のスタッフがすべて運んできてくれます。
お茶のお代わりだけはテーブルに置いているポットで・・・
ごはんとお味噌汁はお代わりコーナーがあるので、そこでスタッフさんに新しいお椀に入れたお味噌汁と交換していただくという流れだ。
1テーブルを6人で囲んで、先に席に着いた人(リーダー)次第でその場の空気が変わる穂高岳山荘での食事とは違い、余計な気遣いをしなくていいので気楽に食事を頂けました。
これが槍ヶ岳山荘の夕食。
ハンバーグは手ごね感があるしっかりした食感なので僕好みでした。
そして何よりも感動したのは、えのきだけと白ネギがたっぷり入ったお味噌汁!!
もう涙が出そうなくらい美味しくて温かかった。
身体は完全に冷え切っていたので、動きが悪かったのもそのせいです。
それだけにこのお味噌汁の温かさは心に沁みました。
おまけに汗をかき過ぎて塩分も不足していたので本当に救われました。
食欲よりも立ち上がる事が苦痛だったこの時の僕が、お味噌汁のお代わりに2度も立ち上がり・・・もっと食べたかったけど少し遠慮してのお味噌汁3杯!
ごちそうさまでした!
温かいご飯で少し生き返った僕が部屋に帰ると、窓からちょうど夕日が沈む瞬間を観る事が出来ました。
穂高岳山荘から観るのとは、多少夕日と笠ヶ岳の位置が違うだけで、相変わらず美しい夕日です。
空も澄んでいるので、今夜の天体ショーは最高に違いない!
ところがこの日の写真はこれが最後。
スマホの電池が残り僅かで、ロビーに充電しに行ったのだが、10分もしないうちに消灯時間がきて主電源を落される。(20:00)
そしてウインドブレーカーを着て外に出たが・・・
月は2日前から美しい輝きを放っている。
前夜も平湯温泉までの運転中、僕の眠気と疲れをずっと癒してくれた月明かり・・・
「お前!ちょっと眩しいって!」
突如怒りに変わる!(笑)
月明かりが余りにも眩し過ぎて、天の川が肉眼でギリギリ見えるかどうかのレベル。
見える星の数もいつもより大幅に少ない!
月は美しい・・・だが撮影したかったのは満天の星空と天の川だ!
想定外のハプニングで放心状態の僕に話しかけてくれた人がいた。
今年初めて槍ヶ岳に登ったという男性で、先月にもここでテント泊をしたのだという。
「アウトレットで2000円台で買ったテントでしたが楽しめましたよ!寒かったですけどね!」って。
前回は1人だったけど、今回は子供2人を連れてきたので、到着したのは18時過ぎだったそうです。
小学1年生と3年生の兄弟・・・。
すごくないですか?
ここまで登ってきた子供たちもそうですが、最後まで諦めさせずに連れてきたお父さんが!
お兄ちゃんの方には富士山の山頂にも2度付き合って登ったそうです。
「すごい小学生だなぁ~!」(そんな話を聞くと自分の子供の頃を思い出してワクワクする)
まだそんな子供たちがいるんだ?嬉しいなぁ~!って気持ちで幸せな気分になれます。
その男性(お父さん)は元自衛官で、訓練で富士登山をした事があるらしい。
その話をしたら長男が「僕も登りたい!」って話になって・・・
その長男に付き合わされているうちに、気が付いたらお父さんも山の魅力に目覚めてしまったそうで、これからはあちこちの名山を登ってみたいと思っているそうな。
「明日はどうする予定ですか?」
お互いその質問で盛り上がる。
僕は結局槍ヶ岳の山頂にまだ立っていないので、早朝にご来光を拝んでから朝ごはん。
その後大キレット経由で北穂高小屋で美味しいランチを食べて、そこから穂高岳山荘を目指します。
その翌日は天候次第ですが、西穂まで縦走するか前穂に登ってから岳沢へ下山するか、当日に判断します・・・と。
彼は2人の息子さんを槍ヶ岳山頂に立たせてあげたいのと、1ヶ月前に来た時は霧で周りが何も見えなくて、山頂に登っても景色を楽しめなかったらしい。
自分自身も槍ヶ岳からのパノラマ展望を楽しみたいというのが第一志望。
もし天候が荒れた場合は、隣の大喰岳の山頂くらいは子供たちに踏ませてあげたい・・・そうおっしゃっていました。
そんな時にテラスを突風が吹き抜けていった。
「寒っ!」
外の気温はもう氷点下である。
そろそろ雪や凍結の心配もしないといけないのがこの山域の恐ろしさでもあります。
槍ヶ岳は北アルプスのほぼ中心に鎮座し、北アルプスの山々のすべての頂から肉眼で視認できるほど判りやすい北アルプスのシンボルにして、国内第5位の標高を誇る山です。
何よりも黒部川、神通川、梓川、高瀬川などの源流がすべて槍ヶ岳の周辺に集まっています。(尚、黒部川の源流は鷲羽岳なので少し北西、高瀬川は犀川~梓川と合流します。)
全ての風や雲がこの槍ヶ岳に吸い寄せられるように集まって来ます。
天候が荒れれば途端に別世界になるのが槍ヶ岳です。
エヴァンゲリオンのネタにまでなっていますが、長野県民が台風の被害をあまり受けないのは、すべて槍穂高連峰という自然のATフィールドが働いているからだというのは、意外に知られていない事実です。
長野県の北信と中信は槍穂高連峰が鉄壁の防御を・・・南信は中央アルプスと南アルプスが伊那谷で台風の規模を抑え込み温帯低気圧に変えてしまう。
長野県最強伝説のシステムだ。
つまり槍穂高連峰を縦走するという事は、その西日本から迫って来る悪天候を防ぐバリアーの境界線を歩いているって意味なので、如何に天候に左右される山域なのかは想像に難しくないと思います。
身体が震えるほど寒くなってきたので山荘内に避難。
後で冷静に考えて・・・「うわぁ~!しまった!俺・・・何やっとんじゃ~!」と思った事が一つ。
そう、満天の星空は無理だったけど、あんなにも美しい月が槍ヶ岳の傍らに寄り添っていたのだ!
「なんであれを撮影しなかったのかなぁ?アホやわ俺、ホンマにアホや~!」
天の川が観れなかったショックで冷静な判断力が欠如しておりました。
ショックを受けつつも、もう一度外に出て撮影しよう!とはならずに寝落ち。
槍ヶ岳山荘に宿泊している人は比較的静かで落ち着いた人が多い。
たまにスリッパをパカパカ言わせながらドンドン歩く人もいるけど、穂高岳山荘のそれを思ったらマナーのできた利用客が多いと思いました。
それにしてもこの日、上高地から槍ヶ岳山荘までの行動時間は予想通りの8時間。
勿論こまめな小休止を入れて、補給のミスさえ除けば完璧なスケジュールで登ったと思う。
実質歩行時間は計算して見たら6時間16分だったので、標準タイム9時間10分から見ても我ながら優秀なタイムで登ったと思う。
それだけに補給が上手くできていたら、無駄な小休止も減らせてダメージの蓄積も最小限に抑えられたと思うので、次回は補給のタイミングや、不確定要素に備えた補給食やドリンクの準備など、綿密な準備と作戦が必要だと改めて感じました。
あとは自分で思っている以上に周りの影響を受けやすいストレス体質なので、もっと心にゆとりを持ちペースコントロールが乱れる事の無いようにしないとねぇ~。
例えばレーシングカートで走る時・・・自分で言うのもあれですが、僕は予選(タイムトライアル)は速いんです。
例えレンタルのカートでもタイヤグリップとブレーキ性能のギリギリ限界まで攻め込んで走るのが得意なので、レンタルカートとは思えないくらいのタイムでは走れてしまうのです。
でも本戦になると、後ろについているカートが離れず付きまとわれるだけでストレスと焦りが生まれます。
できるだけ無駄なラインを走らないように・・・更にはブレーキのタイミングをギリギリまで我慢したり、アクセルを踏み込むタイミングを早められるようにわざとラインを変えたりして、後方のドライバーを撹乱させつつ、じりじりと差を拡げようとする。
しかし巧いドライバーは前を走る車両のハンドルさばきや、コーナーへの進入角度、ブレーキのタイミングで走りの癖を見極めてしまうんですね。
だから走りを完コピーされて、更にはその走りでタイヤのマネジメントに無理が生じて来るタイミングも走りながらバレてしまう訳。
心理的には後ろから付いて行く方が有利です。
段々タイヤの食いつきが悪くなってきたら、逃げているドライバーの焦りは増してきます。
どんなに頑張ってもラップタイムが縮まらなくなるのでストレスも増します。
僕はその辺の心の踏ん張りが弱いですね。
更にタイヤにタイヤをぶつけて来られたり、無理やり縁石に乗り上げてでもインに頭を捻じ込まれるなど、挑発的な運転で絡んで来られるとつい熱くなってしまいます。
そうなるとアクセルワークが粗削りになってしまうのでヘアピンでスピンしたり、高速コーナーでオーバースピードのままコースアウトする等、自爆する率が高くなります。
このすぐに熱くなる性格をどうやってコントロールするんだ?
小学生の頃よりは大幅に丸くなった。
自転車レースや車でレースをやっていた頃よりは更に無欲になって落ち着いた。
でも本質だから完全には消せないんですよね。
今回の補給ミスは準備不足もそうだけど、自分のせっかちで短気な性格が働いてペットボトルのドリンクを買える時に買わなかった事が問題。
赤ヘルメットの紳士を意識し過ぎてハイドレーションの水を補給しなかった事も問題。
結果赤ヘルメットには大差をつけて登ったものの、想像以上にダメージを残してしまった。
そんな反省点をあれこれ考えていたら疲れて寝落ち・・・。
夜中の01:20に目が覚めました。
装備を整えて一眼レフカメラと三脚を担ぎ、場合によっては槍ヶ岳山頂に登るつもりでヘッドランプも持って外に出ました。
テラスのフェンスも見えないくらいの深い霧と、時々吹き荒れる突風。
ここは何処ですか?って思えるくらい周りが見えません。
ヘッドランプをつけたら乱反射して尚更前が見えません。
槍ヶ岳の山頂に行けたとしても、二度と戻って来れないくらいの深い霧です。
そして恐ろしく気温が低い!
メガネもすぐに水滴で前が見えなくなりました。
風に吹かれた霧が原因なのか?寒さによる結露なのか?その両方なのか?
今までの経験上、夜中の1~2時は天候や風が落ち着いて穏やかな事が多かった。
そう思って出てきたらまさかの霧と暴風。
早朝には霧が晴れてくれることを祈りつつ、部屋に戻って寝直すのだった。
次回どうなることやら・・・(苦笑)
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