2日目は早朝 4:10起床
槍ヶ岳の山頂からご来光を見ようと考えている登山者が動き始めている物音で僕も目覚めた。
すぐに準備を整えて04:30に外へ出たが、相変わらず視界はゼロ。
東鎌尾根や上高地方面へ下りる道の指標すら見えない視界でした。
この日天気が崩れると判断していた人は前日に下山したと言うが、ほとんどの人が午後から崩れるという予報を信じており、朝からここまでガスるなんて、山荘の人もビックリしていた程だった。
風も強くて外は寒い。
ロビーで霧が晴れるのを待ち続ける。
待っている間色々な方から声を掛けられました。
皆さんこんな天候になって不安なんですよね。
中には燕岳から表銀座ルートで歩いてきた人もいました。(燕山荘と大天井ヒュッテでそれぞれ1泊したそうです。)
燕山荘はとっても素敵なんだそうです。
僕はまだ泊った事がありませんが、雰囲気が素敵ですし、ホルンの演奏が聴けるとかで、泊まってみたい山小屋の一つです。
そして昨夜仲良くなった元自衛官さんが二人の息子さんを連れてロビーへやってきました。
「おはようございます!」
ちびっ子たちはたちまちロビーで待機している登山者たちのアイドルになった。
上高地から1日で槍ヶ岳山荘まで登るっていうのは、大人でもかなり大変な道程です。
それを小学1年生と3年生の兄弟が登って来たって言うのは驚異的な話です。
長男の富士山へ2度登ったって話にも皆が驚いていました。
「そうすると小学校5~6年生になる頃にはエベレストに登っているかも知れないねぇ。」なんて言う声も聞こえてきた。
誰かが「富士山は標高何mか知ってる?」と質問したら、お兄ちゃんは間髪入れず「3776mです!」と答えた。
次にまた別の人が「じゃあ槍ヶ岳は?」って聞くと、「3180mです!」と迷いもせずに答える。
そこで弟君が「槍ヶ岳は3188m!」と言い直すように発言したが、この時誰もがお兄ちゃんの方が正解だと思っていながらも、誰一人弟君の発言を否定しようとしなかった。
またお兄ちゃんさえも弟君の発言に否定もせず妨げる事もしなかった。
改めて元自衛官さんの教育の素晴らしさに感動してしまう。
そして他の方々も素晴らしい!
子供が数字を1mでも多く言うのは、単純に間違って覚えている訳じゃない。
1mでも標高の高い所に登りに来たんだというポジティブな思考なのだ!
きっと負けず嫌いで、お兄ちゃんを良い意味でライバル視している事だろう。
皆それを一瞬で悟ったから数字の事には敢えて触れずに、「うん、ここまで登って来るなんてすごい事なんだよ~!」って褒めてあげていた。
きっと切磋琢磨してすごい兄弟に育つに違いない!と誰もが直感でそう感じた。
未来が楽しみである。
結局ロビーで1時間も皆と立ち話で駄弁りながら待っていたけれど、天候は一向に回復の兆しが見えないまま・・・朝食の案内が放送で流れた。(5:30)
朝はご飯を2杯とお味噌汁を3杯頂きました。
スマホはロビーで充電していたので写真は無し!
そして部屋でストレッチをし・・・念の為、防寒用にスパッツを履いてから出発準備を整えてチェックアウト!
脚のダメージは回復し切れておらず、パフォーマンスは概ね25%くらいですが、天気さえ回復すれば北穂高岳までは気合と根性で登れそうな感じです。
ここの標高3000mの稜線歩きは、DVDなどでは南岳までは比較的緩やかで歩きやすいと紹介していますが、どこまで行っても尾根上を歩くルートなので、ストックは2本とも収納してザックに縛り付けました。
風も強いし、霧雨で岩稜帯は滑りやすくなっているので、両手はフリーにしている方が安全なんです。
視界は少しマシになったけど、それでも20m先までしか見えません。
とりあえずスタート!(6:37)
そして尾根の飛騨(岐阜県)側は常に風速15m/秒前後の風が吹き荒れ、メガネは10秒で見えなくなります。
見えない状態でなんとか勘で歩きながら・・・いよいよ岩の影すら遠近感で判断できなくなったら、その都度メガネを拭いて・・・その繰り返し。
全然スピードが上がらない。
最悪な事にスパッツがやたらとずり下がって来る!(笑)
ある意味視界が悪いので、他人に見られる事なく穿き直しができて良かったのだけど、300m程歩く度にスパッツを引っ張り上げて登山パンツを穿き直し。
我ながらやっていて辛くなる。
こんな事だったら寒くても良いからスパッツなんて穿くんじゃなかった!と後悔。
槍ヶ岳山荘から隣の大喰岳(おおばみだけ)までは、通常ならスキップで行けるような距離だ。
それなのに風が強くてまともに顔を上げて歩けないし、場所によってはバランスも取り辛い。
それでいて雨と霧でペイントを見逃しかねないので、一歩間違ったら遭難事故になり兼ねない状況。
それなのにメガネとスパッツのストレス半端なく・・・
しかも大キレットを目指そうなんて人が山荘内で話をしていた方々の中には誰もいなくて、むしろ「この天候で本当に行くの?怖いからやめといた方がいいよ!」って言われるくらいだったので、心なしか寂しいなぁ~って思いながら歩いていました。
2年前に北穂高小屋で出会ったN村さんがいたら心強かったなぁ~。
登り返しを歩いていると、少し向こうでクマ鈴の音色が聞こえたので、近くを歩いている人がいるんだなぁ~と思いつつ、なかなか追いつかないから不安になって周りを見渡して気配を探っていたら、霧の向こうから3人の人影が!
例の親子でした!
小学生の兄弟は霧の向こうからでもウインドブレーカーの色で僕って認識ができたみたいで、「おじさ~ん!」って手を振ってくれました。
内心「おじさんって言うなよ~!」って思いながら手を振り返したら、走って近付いてきました。
元自衛隊員のお父さん曰く、「この霧で槍ヶ岳の山頂は厳しいと思ったので大喰岳の山頂だけでも踏ませておきたくてこっちに来ました。」との事。
登山に来て山頂を踏まないって言うのは、中途半端で断念させる事になるので、子供たちには良くないですよね?
さすがだなぁ~と思いつつ、「今回は残念だったけど、次回は必ず槍ヶ岳の山頂に登りたいよね!」って声を掛けたら、「もっと危険で難しい山に登りたかった。」と弟君。
何ともたくましい小学1年生です。
この濃霧と強風で怖がるどころか、完全に冒険を楽しんでいます。
「またこのアルプスで出会った時は宜しくね!」って、子供たちと握手をして3人を見送りました。(7:06)
ここはほぼ大喰岳の山頂(標高3101m)なんですが、ここだけは風が穏やかで、元テント場だっただけの事はありました。
しかし歩きだしたらまた強烈な風で顔を上げて歩けない状況に・・・
そして大喰岳山頂の指標を見つけられないまま、気が付いたら次の中岳に向かう稜線を歩いていました。(写真で判るように山頂は二重山稜になっており、写真右手の長野県側の山稜に山頂がある)
槍ヶ岳もそうですが、山頂で指標と一緒に記念写真を撮らないで歩き続けるのって、後ろ髪を引かれる思いで非常に気持ち悪いです。
昨年の奥穂高岳でも、2日目の天候が大荒れで山頂に行けず、涸沢岳の山頂すら諦めて下山し、ものすごく不完全燃焼な気分になってしばらくの間その事を後悔し続けていました。
2年前も北穂高岳~涸沢岳~奥穂高岳と山頂に登ったのに、前穂高岳の山頂だけ偏頭痛が酷くなったからとスルーして岳沢へ下山。
せっかくの穂高連峰の山頂をコンプリート出来るチャンスを諦めてしまったのです。
そういった不完全燃焼だった過去の思いが蘇って胸が苦しくなる。
だからと言ってパフォーマンスが低下している自分には、わざわざ戻って撮影する気力は湧きません。
「次回槍ヶ岳の山頂をリベンジした時にまた登ればいいさ!」
そう自分に言い聞かせ、気持ち悪い心のモヤモヤと葛藤しながら南岳小屋を目指す。
実は昨日の今日なのに非常食と非常用ドリンクを用意していない。
それどころかハイドレーションも水は空っぽのまま!
槍ヶ岳山荘のロビーが混雑していて食べ物を買える状況ではなく、自販機も売り切ればかりでした。(ちなみに槍ヶ岳山荘のポカリスエットは、500mℓのペットボトルが600円します)
何処までも南岳までの稜線歩きがピクニックレベルの道だという情報を信じたうえでの作戦ですが、南岳までなら喉が渇く事は無いですし、朝ごはんのカロリーだけで充分間に合うという計算で、僕は南岳小屋で非常食とペットボトルのドリンクを購入し、水は天水(雨水)ですが1ℓ200円で買えます。
途中の中岳でも水場があるそうなのですが、必ず汲めるかは不明なので、南岳小屋で全部揃えるつもりでいました。
南岳から北穂高岳までなら水は1ℓもあれば多いくらいで、それこそ穂高岳山荘まで余裕で足りるだろうという計算。(どこまでも万が一とか、遭難した場合なんて考えは皆無)
もしも大キレットで滑落して動けなくなったら・・・
岐阜県側に滑落したらまず命はありません。滝谷は鳥も恐怖して近付かない断崖絶壁です。
長野県側だったら九死に一生の可能性はあります。
その場合なら北穂池まで地面を這ってでも辿り着けば水には困りません。
とりあえず滑落する気はないものの、最悪の状況は頭の中でイメージしています。
これは痩せ尾根です。
左は長野県側ですが落ちれば無事では済みません。
ここを右手に登って、痩せ尾根を岐阜県側へ回り込んで先へ進みます。
これ・・・ピクニックで歩くような道か?(汗)
長野県側は風が穏やかなので怖くないけれど、岐阜県側に回り込んだ瞬間暴風が吹き荒れる。
この丸印を跨いで岐阜県側に回り込みます。
因みに後から写真で見て「ああ、こんな感じだったんだ?」と思うものの、実際に僕のメガネは常に水滴で前が見えにくい状態だったので、ペイントがあって〇か×かを何とか判断できますよ!程度の視界で歩いています。
なので尚更ピクニックな気分には程遠い心境でした。
そしてそんな状況で度々スパッツを引っ張り上げて、ズボンを穿き直すという無駄の応酬です。
我ながらとってもシュールです。
絶対に知っている人には見られたくないような状況です。(笑)
せっかくハイマツ帯が出てきたのに、雷鳥の影すらありません。
たまにすれ違う登山者たちも、まるで『この世の終わり』にいるみたいな表情で、とっても辛そうです。
果たして僕は本当に大キレットに行けるのだろうか?
無事に槍穂高大縦走という夢を達成できるのだろうか?
次回へ続く!
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