北穂沢のどこまでも続きそうな石段とガレ場を無心に登る。
神戸で日常を送っていると、「しんどいとか危険とか、そんな事どうでもいいから俺は山に登りたい!」って思うのですが、実際に登っている最中は苦行以外の何物でもない。
ただ自らが一度登ると決めた事なので、意地でも登るっていう自分自身への制約を果たす事と、登った後に待ち受ける感動や喜びがあるという確信だけが僕の気力の源となる。
向こうに見える涸沢ヒュッテの標高は2309mなのでテント村付近は標高2300mって感じでしょうか。
のこぎりのような北尾根のラインがかっこいい!
これからどんな天候になるのだろうか?
実は登る前からも、そういうの気にしていた登山者の声を耳にしていたので、僕まで不安になってしまった。
そして後から知った話ですが、この時点で山頂付近は初冠雪!しかも穂高岳山荘のある標高2983m付近は気温が-7℃で風も強めだったそうです。
つまり標高3106mの北穂高岳山頂は気温-8℃って事なんです。
それで風速15~20m毎秒とかの強風が吹いていたら、湿度が高い事も加えると体感温度は-30℃前後になる事も?
そこまで具体的な情報を知らずに登っていた事は、ある意味幸運でした。
『知らぬが仏』ってこういう時に使っていい言葉だっけ?
ここから穂高岳山荘が見えていますし、奥穂高岳と涸沢岳の山頂もそろそろ姿を現しそうです。
魔王の棲む山城に進軍しているような気分です。
そう思ってザイテングラートを見る。
あの取り付きが標高2674mなので・・・
えっ?もしかしてもう同じくらいの標高まで登ってきたの?
時間はまだ 7:01です。
時計を見た瞬間「それはないな・・・さすがにまだ早い。」とガッカリ。
「まだ標高2500mまで登ったかどうかってところかな?」
少し登っては振り返り、景色の移ろいを味わいながら撮影。
光と紅葉のコントラストが綺麗過ぎて、箱庭というかジオラマ模型を見ている気分。
その瞬間の良さみたいなものが常にあったりする。
こうでなくっちゃ!!
標高はここで概ね2600m程。
標高差750mの登坂なので、ようやく3分の1の行程が終わったところ。
現在時間は 7:12なので、ここまではまずまずのハイペース!
途中追い抜いた登山者は暑さでウインドブレーカーを脱いでいたが、僕はこの先がとんでもなくやばい事を予測していたので、少しくらい暑くても脱がない作戦で登る。
脱いでリュックにしまっている間に体温を奪われるリスクがあるからです。
振り返ってみたら、さっき抜いた登山者はまだ休んでいます。
長時間動かないなら余計に冷えるので、「大丈夫かな~?」と心配になる。
あの尖っている辺りで標高約2800mくらいです。
間もなく僕の位置も標高2700m付近に近付いています。
唐松岳山頂と同じくらいの位置ですね。
僕は危険なルートになればなるほどイキイキしてきます。
ここらはハイマツとナナカマドが入り混じっています。
そろそろライチョウとか見れるんじゃないか?って期待も出てくる。
でもガレ場は嫌いです。(笑)
完全に白出沢の一件で、ガレ場には苦手意識が根付いてしまいました。
この辺りから下山者とのすれ違いが増えてくる。
ここである一人のご婦人が下山してきて、僕に伝言をお願いしに来る。
「この後女性2人と男性1人のパーティが下山して来たら、私は先にゆっくりと下山して待っていますと伝えて下さい。」
「ええ、今朝モルゲンロートを近くで観ていたグループですよね?」
「ああ、覚えてくださってたんですね。」
「なのできっとどのパーティか判るので伝えておきますよ!ちなみに先に下山する理由は何だったんですか?」
「山頂までは寒くて防寒に自信が持てなかったので先に下りてきたんです。それではよろしくお願いします。」
概ねこんな会話だったと思います。
下山のスピードを見てもかなりのベテランだと思えるご婦人が、慌てて引き返すってどんな寒さよ?
ますます不安。
少し角度が付いているからなだらかに見えるだろうけど・・・
ほんと・・・山の高度感とか斜度のきつさって・・・
写真で表現するのがとっても難しい!
山岳カメラマンへの道は相当険しいなこれ。(笑)
ここの鎖場を登って、最後にハシゴをクリアすれば南稜です。
当然僕は鎖なんて使いません!
こんな面白い所を鎖なんて使ったら勿体ないでしょ?
現在 8:00ですので、少なくとも降ってから2時間以上経過した雪ですね。
せっかく3点支持で立っていないとバランスの悪い岩壁で、頑張って撮影しているのに割に合わない!
本当に写真って難しいですね。
ここらの山って9月まで普通に雪渓が残っているのに、10月になったらまた新たに雪の降る季節になってしまうのが凄いですね。
でもハシゴだけは素直に使わせて頂きます。(笑)
ここが南稜取り付きで、ここから先はガレ場が続きます。
誰かがガレ場でつまずいたり滑ったりすると、その石ころがここから落下する訳ですね。
ここでは自分が落石の被害に遭わない事も大切ですが、自分が加害者にならない意識も強く持たないといけません。
周りに気遣いが出来ない人は絶対に登ってはいけない領域という事です。
でも最高に景色が良くなってきたぞ!
北穂高岳山頂までの中間地点くらいです。
ここで電話がかかってきてしばらく通話。
この先通話しながら歩けるほど楽な道じゃないので、手短に長電話!?
また冷気を含んだガスが降りてきた。
おいおい勘弁してくれよ!
しかしここで遠くに富士山を確認しました!(8:12撮影)
画面中央より左が八ヶ岳。
画面中央の雲の少し開いて右隣りの雲の真下に台形のシルエットが薄っすら見えませんか?
あれが富士山です。その右手前には南アルプスの甲斐駒ヶ岳のシルエットも見えてます。
北尾根の尖がっているところに重なるように見えるのは同じく南アルプスの仙丈ヶ岳かと思われます。
言っている間にガスがかかって富士山がこれ以上はっきりと見えなくなってしまいました。
ちなみにこれは後から登ってきたN村さんが同じ場所にてズームで撮影した富士山と甲斐駒ヶ岳!仙丈ヶ岳は雲で隠れています(9:58撮影)
「あの先に下山された女性のグループで間違いないですよね?」
「あっ!ハイ!そうです。何か伝言でもございますか?」
「ええ、ゆっくり下山して待っていますとの事です!」
「解りましたありがとうございます!そういえばそこで冬毛になりかけのライチョウがいましたよ!」
「えっ!本当ですか!」
急に元気が出てきました。
おおっ!これは霜柱では?
ハイマツも霜を被っています。
ここから上は別次元の世界になります。
ここでガサガサ!って音がしました。
ライチョウです!
慌ててカメラを構えましたが間に合いませんでした。
行くか?
でも・・・みだりにガレ場に入って落石を作ったらえらいこっちゃになるし・・・
ああ、ライチョウには会いたいのだけど・・・
って悩んでいたら、僕の約40分前に出発した・・・昨夜同じ部屋に泊まったBさんが下山してきたのです。
「もう登頂してきたんですか?」
「いやいや、途中でペイントの印が判らなくなって、一人だと怖くなっちゃって・・・。ここに登るのは今回初めてだから余計かな。」
「一緒にコーヒーを飲む約束だったのにそれは残念です。今からもう一度一緒にトライしませんか?」
「いやぁ~、今日はいずれにしても登ってからすぐに下山する予定だったからね。また次回の楽しみに残して、今日は潔く帰りますよ。」
「ではまたここでお会いできる日を楽しみにしています。」
そう言って固く握手を交わしてお別れをしました。
Bさんは写真を撮るのが苦手で、ライチョウが逃げちゃうほど声の大きな紳士ですが、とっても気さくで同じ部屋で過ごせて楽しかった人なので、また穂高で出会えたら嬉しいです。
傾斜角だけで言えば白出沢以上に強烈な気がします。
誰か一人で登っている人がいるような・・・
こっちは再びガレ場!つまらない!
つまりここは既に標高2900mを超えているって事になる。
携帯電話のカメラではどうにも表現力に限界を感じます。
いや、僕の腕が未熟過ぎるのか?
更に標高を50m程上がったであろう場所から、もう一度振り返って常念岳を撮影。
何だか絵になるな~って思ったので撮影。
ようやく手が届きそうな距離で北穂高岳北峰の山頂とその直下に建つ北穂高小屋が見えてきました。
つまりここはもう標高3000m付近です。
霜は被っていますがここはお花畑・・・
って事はここが地名でいうところの南稜テラスかな?
そしてまた富士山が見えていたのですが、雲に邪魔をされる。
丁度大きな雲の谷の部分に富士山と甲斐駒ヶ岳が見えています。
っていうか山が白い!
奥穂高岳はともかく、これから登る予定の涸沢岳・・・
確実にルート上の難所のところが雪で白くなっています。
「あれ・・・歩けるの?」(汗)
同じ場所からN村さんがズームで撮影したものが・・・
ジャンダルムはともかくロバの耳があんなに白いと、トラバースの箇所が怖くて誰もまともに歩けませんね。(汗)
足を滑らしたら真っ逆さまですからね。
まあ涸沢岳も北壁は・・・ほぼ垂直に登る箇所だらけらしいので緊張するなぁ~。
涸沢槍の付近も真っ白です。
亀岩が邪魔でD沢のコルは確認できませんが、涸沢のコル~奥壁バンドの涸沢側は大丈夫そうです。
しかし滝谷ドームの北壁の雪を見る限りでは岐阜県側の斜面はやばそうですね。
縦走ルートでは涸沢側と岐阜県側とで、頻繁にルートが入れ替わるはずなので・・・
さっきまで雲に覆われていたはずなので、ガスで前が見えないとなると、南稜テラスからの登りは正しいルートの方向が判らなくなる可能性があるので、きっととんでもなく恐怖だったに違いありません。
僕は少し遅れてスタートしたのである意味ラッキーです。
この二人は僕の少し前に涸沢小屋をスタートした2人です。
荷物を持っていないので、北穂高岳までのピストンで、荷物は涸沢小屋に置いてきた感じでしょうか?
二人でペチャクチャ会話していた割りに、こちらが挨拶しても無視だったので、心の中で悪意を込めて「落ちろ!」と叫んでいる絵です。
するとそのタイミングで・・・
一旦松本の方に戻って行くように見えましたが、また戻ってきて涸沢カールをぐるぐる旋回しています。
前穂高岳か吊尾根付近で滑落事故でもあったのでしょうか?
僕が不謹慎な事を考えたタイミングで飛んできたのでビックリしました。(汗)
確かに前穂高岳の方もしばらくガスがかかっていましたからねぇ~。
気になります。
死亡事故が想像より少なくてよかったのですが・・・総件数違ってませんか?
痩せ尾根のクライミングなので、馬の背を延々登っていく感じでしょうね。
この標識に向かって左へ登ると、北穂高岳南峰を巻いて涸沢岳~奥穂高岳方面へ向かいます。
とりあえず北穂高岳山頂は北峰にあたるので、ここでは右へ進みます。
思わず2度見!
いや、3度見してしまった!
「えっ?何て?涸沢まで1.9km?嘘やろ?」
たった1.9kmで750m近い標高差を登ってきたの?
休憩含めて3時間近い時間をかけて登ったのに・・・たったの1.9kmですか?
平地だったら20分もあれば歩ける距離ですよ?
平均斜度39%以上です。(白出沢の後半でさえ平均33.3%)
いいですか?最大斜度じゃなくて、あくまで平均斜度がですよ!
とてつもなく恐ろしい急登です。
なんで『日本3大急登』に穂高連峰の登坂が含まれないのでしょうか?
明らかにおかしい傾斜角ですよ?
穂高連峰は規格外なので日本3大急登に入れてしまうと、他の山の威厳が霞んでしまうからなのでしょうか?
何だかあまりの衝撃に力が抜けてしまいました。
とりあえず面倒くさいのは、せっかくここまで登ったのに、20m程下って、そこからまた50mくらい登った所に山頂があるという構造。
松濤岩と呼ばれる岩を巻きながら下って、そこから最後の力を振り絞って一気に石段を登り切る!
9:45 北穂高岳山頂に到着!
北穂高小屋に宿泊の方で、たまたま山頂にいた人がいたので写真をお願いしました!
結構バテています。(笑)
後ろには槍ヶ岳が見えるはずですけど完全にガスっています。
ちなみに写真の右後ろに北穂高小屋へ下りる石段があります。
逆に左後ろは恐怖の絶壁になっているので、どんな人も落ちたら一瞬で死ねます。
この調子では『槍ヶ岳を観ながらのティータイム』ミッションがどうなる事やら・・・
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