これは朝4:49に撮影した白馬岳方面の空。
今なら荒れる前に歩けそうな気もするが・・・
白馬、妙高方面・・・
杓子岳、白馬鑓ヶ岳方面・・・
これってもしかして行けるんじゃない?
台風8号の接近を心配していたけれど、「この程度の天候なら行けるかも知れない」という淡い望みが湧いてきた。
村営白馬岳頂上宿舎の食堂(写真右の部屋)は、この時間から朝食の準備で忙しくしていました。
驚く事に朝もビュッフェ形式での食事でした!
調子に乗っておかわり!
むしろこっちの方がおかずが豪華になってしまった。
朝食は一段と人数が減って、こんなにおかずのレパートリーを増やしてもらっているのに申し訳ない気持ちになる。
僕の同室の一人も4時頃からガサゴソやっていたので、朝食抜きで早朝出発したものと思われる。
僕は朝食後、出発の装備を再度確認し直して6:15にチェックアウト!
決して遅い出発だとは思っていなかったのだが、館内の様子を見る限りチェックアウトは僕が最後の様だ。
「なぜこんなに慌ただしいのだろうか?」
実は食事の最中から本格的に雨が降り始めてきたのである。
恐らくはそれで誰もが慌てて出発を早めたらしいのだが・・・
僕が玄関を出ようとしたら、館長を含めた館内スタッフ数名に囲まれました。
「本日はこれからどちらに向かわれる予定ですか?」
僕はチェックインの際に予定ルート(スケジュール)を全部記入しているので、知っているはずなのである。
知っていて敢えてその質問の仕方・・・嫌な予感。
「これから不帰ノ嶮と唐松岳を経由して八方尾根から下山の予定です。」
「悪い事は申しません。今回はルートを考え直して頂けませんでしょうか?」
「そんなにマズい天候なのですか?」
「ええ、これからもっと雨と風が酷くなると思ったら、とてもではございませんが不帰ノ嶮を歩かせる訳にはいきません。ここ(頂上宿舎)は岩山に囲まれた奇跡的にも無風地帯なんです。ところがすぐそこの稜線まで上がったらもう風速15m/秒を上回る風が吹き荒れているので、不帰はここの比ではありません。例えうちのレスキューのスタッフでさえ、この天候なら絶対に行かせません。そのくらい今日は危険なのでどうか大雪渓ルートか、せめて栂池自然園方面で下山して頂きたいと考えております。」
そう言って頭を下げられてしまいました。
僕は毎回台風に計画を潰されているので、今回こそは強行突破するぞ!って意気込みで来ていたのですが・・・
山荘の館長にここまで説得されると本当に行き辛くなるものですね。
不帰ノ嶮も蛇紋岩だらけなので、雨の日に足を滑らせて転落する人が多いのだとか。
最近も20代前半の女性が滑落死したと聞いて、強行突破してもしもの事があった場合、彼らに多大な迷惑をおかけする事になり兼ねない・・・
「解りました!とりあえず念の為に稜線まで一度上がって最終決断をさせて下さい!」
僕はそう言って出発する事にしました。
稜線の分岐点は雨もパラパラでそこまでコンディションが悪い訳ではありません。
この時点では概ね10m/秒程度の風が吹く程度だったので。
「ん~。行けそうな気がするんだけどなぁ~。」
ただ現地の主がそう言っている以上は絶対にヤバいんだと思います。
判断に困ります。
テント場から2人組のパーティーが、更に向こうの丸山の中腹に4~5名のパーティーが見えています。
彼らを追って「皆さんはどうされるのか?」と伺ってから判断しても間に合うよね?
そう思って追いかける事にした。
向こうに見える山々は毛勝三山とその左手に剱岳が顔を覗かせている。
まずは丸山から稜線を下って左の杓子岳。
次にその右の白馬鑓ヶ岳を目指すのだが・・・
鑓ヶ岳の山頂だけが雲に覆われている。
あの瞬間だけは嵐の中、視界ゼロで進まないとならないんだろうな。
まるで魔王の棲家のようである。
そうは言っても本来、あのくらいの雨雲なら何とか行けそうなのだが・・・
実はこの日の僕自身のコンディションは、あくまで自己診断ではございますが100点満点中で言うなら60点という状態。
前日に両脚の大腿四頭筋と大腿二頭筋(ハムストリングス)が攣った状態で激痛に耐えながら歩いたものだから、そのダメージがまだ回復しておらず、このまま行けば白馬鑓ヶ岳の登りで再発しそうな予感がする。
不帰キレットまで脚が攣らずに持ってくれたなら、体力よりもテクニックを必要とする不帰の嶮は問題なく通過できる。
しかしそこまでに再発した場合ペースが落ち、蛇紋岩の急斜面を滑らずに歩く集中力が維持できるだろうか?
何より頂上宿舎の館長やスタッフが、僕一人に対してあそこまで必死に引き留めたからには、今後の雲行きなどに経験者としての確信に近い根拠があるのだと感じている。
特に僕が夏場の登山で一番恐れているのは落雷である。
初めて穂高岳山荘に宿泊した時に味わった雷の恐ろしさはもはやトラウマ級と言っても過言ではない。
『ピカ!ゴロ!ドカン!』がほぼ同時で、山荘の室内で寝ていて軽い地震のような振動まで伝わってからの、すべての音という音を掻き消すくらいの大音量の雷鳴。
たった今穂高岳山荘と涸沢岳の間に落雷があったかと思ったら、その雷雲の中にくすぶった稲光は更に槍ヶ岳方面を経由して遠く薬師岳の上空まで、雲から雲へ伝染して延びて行き、各地で無数の落雷を一斉に落したのである。
「これが3000mの世界か!」と僕を驚愕させたあの夜の雷雨。
もしも誰も歩いていない不帰ノ嶮であの日のような雷雨に見舞われたら・・・?
考えただけで恐ろしい。
その不安を払拭するのか?それともエスケープの決意を固めるのか?
その為にも彼らに追いつき、彼らのスケジュールを聞いてみたいと思った。
一応大雪渓経由で白馬に下山するルートはそこまですぐに天候が荒れる感じではなさそうだ。
雪倉岳方面の空。
例えば栂池自然園に戻るルートの場合、白馬大池までは安全に行けるとして、もしもそこまでで雨雲に追いつかれてしまった場合、白馬乗鞍岳から天狗原までの下りが危険極まりない。
剱岳と立山を右手に観ながら前を行くパーティーを追いかける。
振り返ったらいつの間にか白馬岳もガスに覆われていた。
山の天候恐るべし!
地形によって様々な方向から風が吹いて来るので、気が付いたらガスって視界を奪われてしまう事もしばしば。
丸山山頂に着いた。
上の写真には白馬大雪渓を下って行った先の白馬尻が見えている。
その向こうに低層雲に覆われた白馬岩岳スキー場が確認できる。
前を歩いていた2人組のパーティーに追いついたので話しかけてみたら、「行けそうなら白馬鑓ヶ岳まで行ってピストンします。」との事だった。
ピストンとは往復を意味する言葉だという事はご存知だと思うのですが、彼らはこの日の夜も頂上宿舎で泊まる予定だという事で、それだからこその余裕あるスケジュールという回答だった。
その前を行ったパーティーにも意見を聞きたかったが、もう丸山を下って杓子岳の取り付きまで行っていたので、即ち『あれに追いつく=不帰ノ嶮ルート強行』になってしまうので、ここで一旦思い留まる。
鑓ヶ岳にかかっている雲も厚みを増してきました。
山頂は相当寒いと思います。
僕も今朝は上にウインドブレーカーを羽織って完全防備しています。
雲の中に入ったら気温は0~5℃くらいになるので、突風が吹いたら体感温度-10~-15℃は覚悟する必要があります。
夏だからと言って油断できないのが3000m級の醍醐味なんですよね。
これは丸山からの展望。
すごくないですか?黒部ダムまで見えています!
剱岳と立山の向こうに薬師岳が半分以上隠れていますが、その左の尖った山は黒部五郎岳。
山の形を見ただけで答えられるようになったら・・・いよいよ山バカです。
黒部ダムの向こうは黒部源流域の山々なので、赤牛岳と水晶岳かと思われます。
ダム湖の左手の尖った山は針ノ木岳でしょうかね。
裏銀座の山々も見えています。
一度はこの北アルプスの稜線を全て歩き通してみたいって野望があるのですが、叶う日は来るのだろうか?
残念ながらこの位置からは槍ヶ岳や奥穂高岳は確認できませんでしたが、前日にガスって見えなかった分の山々の景色が観れたので十分満足は出来ました。
稜線の分岐点まで戻って振り返ると、先ほどまで立って丸山までもがガスの中に・・・
頂上宿舎の人に白馬大雪渓ルートでエスケープする事を伝えて下山開始!
観光組にも連絡して白馬で待機してもらう事になりました。
いずれにしてもこの天候だと八方尾根のゴンドラ『アダム』やクワッドリフトも運休の可能性がある。
無理して予定を強行したはいいが、八方池山荘に着いた瞬間「リフトもゴンドラも止まってますので、自力で下山して下さい!」って言われた時のダメージというか威力の方が強烈なので、きっと今回の決断が正しいに違いない!
そう言い聞かせてスタートしたものの、僕はとてつもなく大切な事を頂上宿舎で確認していなかったのです。
「大雪渓をアイゼンなしで下山する事は可能なのか?」
大雪渓とは言っても氷河のようなものなので、表面は溶けて凍っている可能性はあります。
足を滑らせたら大変な事になるかも知れません。
果たして僕は無事に無傷で下山できるのだろうか?
次回乞うご期待!
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