2021年8月20日金曜日

東京五輪応援の旅7月25日(日) ~その2~ 勝敗を決めるのは99%の勇気と1%の奇跡!


僕はゴールの瞬間しか楽しめない前提で行っていたので、レースの展開がどうとか観れないものと思っていたのですが、大型スクリーンの映像で何となくの状況が観れるようになっていました。

実況は声やしゃべり方の特徴から今中さんとサッシャさんかなぁ~と思いつつも、場内スピーカーの声が小さくて聞き取れない。

ロードレースのスタートは男女共に武蔵の森公園をスタートし、神奈川県~山梨県~と抜けて静岡県に入る訳だが、女子は山中湖から籠坂峠を下ったら富士スピードウェイを一周走った後、再び場外に出て須走(小山町)をぐるっと回って来てから最後に富士スピードウェイをもう一周してゴール。

スタートしてから10kmはパレード走行らしいので、実質137kmのレースという事になる。


個人的には山中湖までの道志みちでアタックの応酬と吸収を繰り返し揺さぶりをかけ、その後山中湖畔で少し動きが落ち着いたタイミングで再び誰かがアタックを仕掛けて籠坂峠を一番最初に下った人がそのまま逃げ切って勝つパターンと読んでいました。

なのでヒルクライムに強い金子選手に有利なコースかと考えていました。

それにしても自国開催なのに日本人選手は2人だけしか参加できず、なぜオランダは4人も参加しているんだ!って思ったのは僕だけでしょうか?

自転車は個人競技と思われがちですが、実際にはチームワークがカギを握る事が大半です。

参加人数の多い国は有利です。

また国籍が違っても、日頃同じチームで仲間として走っている選手同士なら息が合うので、序盤から協力し合って逃げのアタックを決める事もあり得ます。

これまで五輪のロードレースで日本人選手が上位に入るどころか完走すらできなかったケースの多くは、そういった激しい揺さぶりや駆け引きに消極的だったり、海外の選手とコミュニケーションを取って協力し合うって事が無かったからだというのが僕の持論です。


そして僕らが観客席について大型スクリーンを見た時には、既に動きがあって逃げグループが形成されていました。

5人程の逃げグループがいたのですが、メイン集団は特に本気で追う様子もなく、恐らくは中盤の上りで追いついて吸収できるだろうと見込んでいたのか・・・

これは後で知って納得した話なのですが、オリンピックの場合って競技名に(個人)が入っている以上は基本的に個人の表彰ですから、あくまで全ての選手を平等に扱う上でもチームカーや監督が無線を駆使して指示するような事はできません。

つまりこのレースはそこが盲点だという事です。

そしてただでさえスタート時の気温が33度と灼熱のレースだったので、上りに強い金子選手でさえ暑さに苦しんで集団から千切れかける様子が何度か映されていました。

つまり暑さ対策に気を取られて、正確な判断力まで失われた可能性はあります。

そして最初のアタックが決まったのがパレード走行の終わった是政橋!

開始早々いきなりのアタックで、3人が逃げてそれを後から2人が追いかける。

道中更に別の2人がアタックし、その後その前を行く内の2人がスローダウンして集団に吸収される。

こういう入れ替わり状況も逃げた選手が誰で何人いるかを把握できなくなる現象を生み出した。

更に今大会で最も強く速かったオランダのファンフルーテン選手が集団後方でまさかの落車に巻き込まれる。

幸い大きなトラブルもなくすぐに走り出せたが、下馬評でワンツースリーフィニッシュもあり得るとまで言われたオランダ勢の歯車が一瞬ここで狂った可能性もある。

小さな逃げはすぐに捉えるものの、肝心な最初の逃げグループとの距離が縮まらない。

そして実況の声も場内のざわつきや、選手団が須走に接近した事による撮影ヘリのプロペラ音で搔き消され、僕でさえレースの正確な状況がいまいち掴めないでいる。

集団をコントロールしているのはオランダ&ベルギー勢・・・のはずなのに。

「まだ逃げてる選手がいるんだよね?それなのになぜ集団は追わないんだ?余裕をかまし過ぎじゃないのか?」

僕はずっとそんな事をブツブツと言いながら画面を見ていた。

明らかにオーストリアのキーゼンホーファー選手は一緒に逃げていた選手すらも振り切って単独で籠坂峠を下っていた。

恐らくノーマークの選手だった事もあるのだろうが、たった67人しか出走していないレースで、逃げの人数を把握できていないなんていう事態があっていいものなのか?って、現地で観ていた僕としたら心から???な状況でした。

あくまで僕の感想ですが、もしも逃げの選手が何人いるか把握していたら、僕なら動かない集団に痺れを切らして、例え単独アタックであっても飛び出しています。

このまま逃がして平和に銀メダル争い?なんて・・・そんなの絶対にあり得ませんので、僕なら途中でエネルギーを出し切って潰れようが、ゴール前で集団に吸収されて結果的に勝負に負けようが、絶対に運と奇跡と可能性に賭けて決死のアタックに出ます。

結果を出す事もレースですが、勝負をしなければレースは面白くありません。

例えばアマチュアのレースとか、たまに動画が挙がっているのを観たりして思うのが、「この人たちは何がしたくてレースに参加しているの?」って事。

クリテリウムなのにずっと集団の後ろに群がって、最終的に千切れて終わる人。

最後まで先頭のローテーション(風除け)に加わらないで、美味しい所をかすめ取ろうとしているのでしょうが、結局ゴール前のスピードについて行けなかったり、ポジション取りが上手くいかなくてゴールスプリントにすら混ぜてももらえない選手とか・・・

そういう人たちって集団走行のメリットやデメリットも良く解っていないのだと思うのですが、是非とも海外のロードレースをDVDとかでも良いのでたくさん観て参考にして欲しいですね。(輸入物がほとんどで英語解説だったりしますが、何度も観たらちゃんと理解できるようになります)

純粋なヒルクライムやタイムトライアルはペースと体調のマネジメントが大切なのでマイペースである事が優先なのですが、クリテリウムやロードレースは駆け引き要素が多いので、まず先頭で風除けのローテーションに積極的に加わる事。

それで集団内での自分の存在を認めてもらった上で、落下物や障害物の掛け声や、ローテーションに加わらない金魚の糞たちに「お前らも引かんか~い!」って積極的に声掛けをする事でリーダーシップを発揮したり威圧する事も大切。

意外に集団内は連帯感が必要なので、集団内の無風状態でしれっと脚を休めてゴールスプリントまで仕事をしないような人は金魚の糞と言って仲間として認められずに嫌われます。(集団について行くだけでも既に必死な人や、それすらも叶わなずに千切れていく人の事ではなく、あくまで脚があるのに勝負所まで温存して美味しい所だけかすめ取ろうとする選手の事を金魚の糞と揶揄している)


また誰かがアタックした瞬間、それがどの程度の破壊力かを瞬時に判断して、すかさず「逃がすな!追え~!」って声を掛ける人も必要。(それでも誰も行こうとしなかったら「なんどい!お前ら腰抜けの集団か?カウンターの邪魔やから退け~!」ってわざと挑発して、例え単騎でも追わざるを得ない事もある。(この場合挑発に乗って来る選手がいたら戦力になるのでありがたかったりする)

例えば鈴鹿だったらシケイン手前のホームストレートの上り(自転車の場合はゴール前事故防止の為にコース逆走なので)や、ツール・ド・おきなわだったら普久川ダムまでの登り口だったり、集団の速度が緩やかになるタイミングや、道幅が極端に狭くなるポイントやヘアピンカーブ等がアタックを仕掛ける絶好の場所である。

僕も若い頃は勝ちたいって気持ちと同じくらい、レースを楽しみたい!とか他の選手を振り回してレースを混戦させたい!って考えながら、概ね集団の先頭20人以内に混ざって常にいつ仕掛けようかと悪巧みをしていたので、他人のレースでも予想もしない勝ち方とかしているのを観ると本当に魂が震えます。


そしてこの日のレースはまさにそんなレース!

下馬評を根底から崩すような奇跡が今まさに起きようとしているのである。

女子ロードと思って甘く見てはいけません!

これは立派な戦略と・・・何よりも99%の勇気と1%の奇跡がもたらした展開なのです。

似たような事をトーマス・エジソンも言っていたと思いますが、自転車ロードレースの場合はこのワードがシックリとくるのです。


そして勇者がトップでサーキット内に入ってきました。

現地で観戦している観客たちの多くも「オ~!」って歓声を上げながら手を叩いているものの、いまいち状況が把握できていません。

須走に入ってから先ほど道志みちで落車に巻き込まれ、戦線離脱したかに思われたオランダのファンフルーテン選手が鬼神の如く強烈なアタックで集団の速度を早め、先ほどまで逃げていた2人の選手を一気に吸収すると、そのままパワフルに加速して行く映像が流れていたのです。

そのせいで会場はまるでオランダのファンフルーテン選手が現在トップになったかのような空気になっていたのです!

そうです!まだ逃げている伏兵が3人いたのです!

僕はもうこの辺で震えてきました。


オーストリアのキーゼンホーファー選手がピットロードを走るバックには、スクリーンで富士スピードウェイのゲートに近付く暫定2位と3位の選手(イスラエルのシャピーラ選手とポーランドのプリチタ選手)が映っています。

この時点でまだこれだけの距離を稼いでいた事が後にも先にも多くの奇跡を味方につける事になったんです。

そして暫定2位と3位の選手がキーゼンホーファー選手にとって目くらまし役になった事は言うまでもありません。


その暫定2位と3位の選手がトップから2分遅れでピットロードを通過する際にはメイン集団がゲートに差し掛かっていました。

追うものと追われるもの。

レースをしている時・・・この瞬間ほど恐ろしく、そして勝負に命を懸けている充実感で心が満たされている時はない!

これこそがレースの醍醐味であって真骨頂。


更に2分以上遅れて、いよいよメイン集団がサーキット内に入ってきました。

前を行く2人にとって集団相手に2分のアドバンテージはほぼ無力です。

それは僕も鈴鹿ロードで味わった経験があります。

逃げた2人を追ってホームストレートを単騎で飛び出し、シケインでカウンターからの単独アタックを決め、バックストレッチを時速70km以上のスピードで走り、集団が見えなくなるまで差を拡げて逃げていたのに、ゴールの1km手前では真後ろまで迫られ、最終コーナーの侵入で一気に吸収されて・・・出し切った僕にゴールスプリントを戦う脚が残っているはずもなく、そのまま集団ゴール。

スプーンカーブ~ヘアピン~立体交差~デグナーの区間は風が強いので、これは運も必要だと感じました。(単独逃げは風に弱い!)

悔しくて涙を流し、ハンドルをぶっ叩きながらゴール!

でもちゃんと勝負を仕掛けて全力以上の力を出し切ったから、レース自体の充実感は最高なんですよね。(笑)

「ヒガシ選手の一人逃げ決まるか~?」って場内の放送でずっと僕の名前が間違って流れていたらしく、当時お世話になっていたショップの店長が実況放送室へ「選手の名前を間違えるな~!」って怒りに行ってくれたというエピソードも密かに嬉しかったり。

だから他人のレースを観ていてもこの展開が一番エキサイティング!


更にメイン集団が通過した2分30秒後にトップのキーゼンホーファー選手がホームストレートを走って1度目のゴールラインを通過!

ターゲットの位置を確認しやすいサーキットにおいて、この絶妙なタイム差こそが奇跡を現実のものに仕上げたんだと思うと、本当にドラマチックなレースだと改めて思いました。


会場の皆さんはとにかく今は雰囲気で熱狂しています。

後で冷静にレースの展開を見直したら、きっととんでもない奇跡に立ち会ったんだと思うに違いありません。


2分10秒ほど遅れて暫定2位と3位のシャピーラ選手とプリチタ選手が1度目のゴールラインを通過。


そしてメイン集団が通過。

一度はアタックを仕掛けたオランダのファンフルーテン選手は一旦集団に吸収されました。

これってやはり前に逃げがいるって判っていないからなんでしょうね。

集団のペース・・・これで良いの?


黄色いヘルメットのファンフルーテン選手の少し後ろに与那嶺選手が走っています。

残念ながら金子選手は先ほどのファンフルーテン選手のアタックで集団から千切れて、現在第2集団の中で頑張っています。


オフィシャルカーにレクサスなんて要るか?って突っ込みはともかく、スクリーンにはこの後続く金子選手のいる第2集団が映っています。


選手たちは一旦サーキットから出て須走(小山町)内をグルッと走っています。

さあオーストリアのキーゼンホーファー選手はこのまま無事に逃げ切れるか?


何と最後の局面で集団のペースが更に加速した為、とうとうシャピーラ選手とプリチタ選手が見つかってしまいました!

そこで集団から飛び出したのはまたしてもオランダのファンフルーテン選手!

ここからまたロケットのようなアタックで、一気に2人を抜いて一人旅状態に・・・

そうです!後で知った事ですが・・・ファンフルーテン選手はこれで完全に、逃げた選手を全て捉えたものだと思い込んでいたそうなのです!


そしてとうとうキーゼンホーファー選手が帰ってきました!

この辺りでようやく会場の観客の皆さんも、何かとんでもない事になっているって事に気付いてきたような気がしてきました。(笑)


そしてファンフルーテン選手が猛スピードで入ってきました!

唯一会場で応援している我々が当時知らなかった事が・・・ファンフルーテン選手がこの時点で金メダルを確信して逃げているという事実。

逆に我々は今更ながらキーゼンホーファー選手を追って怒涛の追い上げを見せているものだと、少なくとも当時はそう思っていたのです。


そしていよいよ伝説的瞬間が近付いてきました!

上空はビッグスクープに高揚するヘリが3機も飛び交っています。

日本国内のテレビではチョロっとしかニュースにされなかったロードレース。(僕は学生の頃から自転車ロードレースのこういう雑な扱われ方に苛立ちを持っていたので、いつかロードレースの素晴らしさを日本国内に伝導する一人になりたいと思っていた)

しかしこの東京五輪のレース・・・実は欧米ではものすごく評価されていたらしい。(男子のレースも含めて)


カメラマンたちも歴史的瞬間に固唾を飲んでカメラを構えている。


体力はとっくに限界だったが、最後は気力で自分の人生をすべて懸けるくらいの気持ちで走り抜いたそうです。

しかもいきなりのアタックから137kmという距離を逃げ切っての大勝利!


彼女はUCI(世界自転車競技連盟)登録のチームにも属せず、大学で数学の研究を続ける学者さんなんです。

自転車の練習もほぼ一人で行ない、チームメイトも無く単独でこのレースに赴き、しょっぱなからアタックを決めて最後まで逃げ切るという・・・ここまでの勇気と奇跡を実現したというのは欧州でもアメージング且つアンビリーバボーな事なのです。

ゴール後に倒れ込んで自分の成し遂げた偉業に信じられないという表情です。



そして1分15秒遅れでゴールのファンフルーテン選手!

ここまで追い上げただけでもすごい!って誰もがそう思いながら声援を送っていたら、ゴールラインを通過した瞬間、両手を挙げてポーズ!

「えっ?なんで?」って思った人もいたとは思うが、きっと銀メダルでも嬉しかったんだろう!って解釈した人がほとんど。

しかしこの後ビックリして放心状態になっているファンフルーテン選手の顔がスクリーンに映っていて・・・。

後で事情を知って納得!

ファンフルーテン選手は最後まで自分が金メダルを獲ったものだと信じ込んでいたそうなのだ。

しかし実際、このファンフルーテン選手の凄さは飛び級で、それは3日後の個人タイムトライアルで改めて見せつけられる事になる。


こちらは3位銅メダル!イタリアのロンゴボルギーニ選手。

ファンフルーテン選手のアタックに反応してよくここまで頑張りました!


与那嶺選手は最後までメイン集団に残って頑張りましたが、ラストのアタックにはついて行けず2分28秒遅れの21着でゴール!


金子選手も8分23秒遅れの43着と暑さで苦しみながらもよく完走しました。

最後に富士スピードウェイのサーキットに入る時点でトップから15分以上遅れた選手はタイムオーバーにて失格(リタイア扱い)になっています。

男子もそうですが、今回の東京オリンピックは日本人選手が全員完走を果たすという・・・

これってすごい事なんですよ!!

20世紀までのロードレース界で、ツール・ド・フランスに出場するクラスの選手に言わせたら「オリンピックなんてアマチュアのレースだろ?」って誰も出ようとしなかったという事実が残っていますが、近年は母国の威信を懸けて出場するプロ選手も増えていますので、確実に大会レベルも上がっているのです。



それでは次回、いよいよ長野県入りします!

我ながらハードスケジュールで後悔しました。(笑)

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