2021年10月8日金曜日

後立山連峰縦走の旅7月27日(火) ~その5~ 轟く雷鳴・・・そして受け継がれる山の一期一会

 

ここは本来『白馬尻小屋』の設営されているはずのポイント。


今年はコロナ渦なので営業していない模様。


ここのすごいところは毎シーズン(7月~9月)僅か3ヵ月間だけの営業なのに、毎回建物を一から設営し秋には全て撤去するってところ。


大雪渓という場所柄、冬季は雪の重みに耐えられない可能性があり、初夏には雪崩に流されてしまうという懸念があるからなのだろう。



これは同じ場所の写真だが・・・本来ならこんな感じの風景で、僕もできれば軽く食事でも食べてから下山をしたいと考えていたのだが、コロナで休業とあれば致し方ない。


白馬尻の北側の風景。


白馬沢の向こうには小蓮華岳がそびえているのだが、雲に覆われて見えない。


ところでこの白馬尻で再びオヤジさんに再会する。


ここで再び会ったのも何かの縁って事になって、一緒に下山する事にしました。


白馬尻から猿倉荘まではヤマケイマップのコースタイムでは1時間。


オヤジさんも1時間くらいだと言っている。


オヤジさんは岩場の急峻な道なら歳の差とか関係なくテクニックで速く歩けるけれど、緩やかな林道やガレ道になったら、歳で体力も脚力も落ちてるから速く歩けないんだと言っていました。


恐らく僕一人なら35~40分程度で歩けるはずなんですけど、今更急いだところで到着時間に大差が無いので・・・


一人で歩くよりも誰かと会話を楽しみながら歩く事を選択。



それにこの辺りはまだまだ蛇紋岩も多く、70代のオヤジさん一人で歩かせるのはちょっと心配。


実際にこの後2度滑って転倒しかけている。(いずれも僕が後ろから滑り込んでザックごとキャッチし未然に防いだ)


そういう訳で僕はお節介も兼ねて後ろから同行する。



それにしても山岳カメラマンの荷物は重いし大きい。(15kg以上の荷物が入っている)


ふらつく度に距離を詰めたりしながらサポート。


そうは言ってもオヤジさんは登山の大先輩でもある。


昔は奥さんとも薬師岳やら雲ノ平やらを登った話を聞いたりして、どのルートで登ったとか景色で一番感動した場所はどこか?って話をしながら楽しく歩く事ができました。


そんな大先輩に率直な意見として、「今日は大雪渓をアイゼン無しに下山したのが正解なのか?予定通り不帰ノ嶮に行くのが正しかったのか?」と聞いてみたのですが、「まあこの時点で言えるのは不帰でも行こうと思えば行けたかも知れないって言うだけで、それは可能性の話。油断すれば蛇紋岩で滑って滑落するかも知れないし、天気が荒れていたらこんな問答もできなかったかも知れないし・・・。」と返ってきて、やはり答えなんて無いよなぁ~って納得するしかなかった。


要は生きて無事に帰る事が全てにおいて正解なのである。


その時は不完全燃焼で悔しさが残っても、生きてさえいればいずれは再挑戦できる。


しかし無理に決行して死んだらそこですべてがおしまい。


天候の変わりやすい高山では運も孕んでいるから、結果論でしか正解か否かなんて知る由もないっていうのがこの登山ってやつなのだ。


毎回思うけど登山って本当に奥が深い。



オヤジさん的にここらの写真なんていうものは今更撮るまでもないって感じ。


白馬岳の稜線で雷鳥を見たらしく早朝4時から撮影して、下山時には葱平(ねぶかびら)までの道中で花という花を撮影しまくっていたので、十分な収穫はあったのでしょう。


山岳カメラマン協会が開催する展示会とやらに毎年新作を出展しないといけないらしく、今後年齢的にも体力的にも山頂まで登れなくなった時の為に、作品の撮り貯めをしているのだと言っていました。



将来的に山岳カメラマンとかやってみたいなぁ~って憧れている僕に至っては、まだまだ素人感覚が抜け切っていないので・・・こんな清流でさえ癒されるからってつい撮影してしまう訳だ。


それにしてもここらの水はどこで汲んで飲んでもクリアな清涼感があって美味しい。


大人になってから居酒屋で酒を知った人なら大抵『長野県の酒』と言えば真澄(ますみ)だろ?って言いそうなんだけど、僕は旅行で行く先々の酒屋やお土産屋さんで祖父への土産に日本酒を買っていた経緯があって、その土地の酒っていうものに子供の頃から関心があったんですよね。

確かに真澄も八ヶ岳や霧ヶ峰等の山の恵みともいえる諏訪の地下水(伏流水)を使っているはずなので飲みやすくて美味しいお酒ですが、僕は大雪渓というお酒が好きで・・・詳しく年齢は言えませんが若い頃から大雪渓の大吟醸を好んで飲んでいました。


真澄にしても大雪渓にしても冷酒で飲めるタイプが大好きです。


口当たりはまろやかですがキリッと辛口なので、美味しいお刺身と一緒に呑むのがオススメです。


とはいえ大雪渓の酒蔵って実は大王わさび農場から程近い池田町にあるので、大町よりも南にあたるんですよね。


美味しい水の摂れる水系が周辺に多過ぎて、どこの水を使っているのか判らないので、白馬大雪渓の水ではない可能性は高い。


安曇野って土地柄、松本の酒蔵同様に槍穂高の恵みである梓川の水かも知れないし、高瀬渓谷の水かも知れない。


長野県のお酒とはいえ大吟醸などの看板酒には兵庫県産の山田錦を使っているっていうのはどこの酒蔵も共通で、あとは地元長野県産の美山錦を使っているお酒が代表的かな。


僕は大人になってから(車の運転が命過ぎて)お酒を飲まなくなってしまったので、若い時のようなテイスティング能力は失われてしまったかも知れませんが、たまに美味しいお酒を無性に飲みたいと思う事があります。


そういえばオヤジさんはワインが好きらしく、この日も帰りに塩尻に寄り道して『五一ワイン』のセラーで奥様へのお土産を買うのだそうだ。


塩尻は山梨に次ぐブドウとワインの生産地。


個人的には仕事で付き合いのあった『信濃ワイン』や『井筒ワイン』を推したいところだが『五一ワイン』を選ぶ人にそんな野暮な話はできない。


さすがは大先輩、選ぶワインセラーもマニアック(塩尻のワインを良く知っている)!


僕の家は父親までが小樽出身だったので子供の頃から余市のワインや、親戚のいる帯広からも近い池田のワインなどに馴染みがあって、赤も白もロゼも各地の物を色々飲み比べたてきたのだが・・・


やはり国産ワインなら山梨か長野のが一番美味しい!(酸化防止剤まみれの御フランス産は寄ってすらもいない)


個人的には山梨にある『ドメーヌQ』のピノ・ノワールが一番好きだが、過去にコンコードやカベルネ・ソーヴィニョン、キャンティといったブドウから作ったワインで悪酔いしてから僕はワインを敬遠するようになってしまった。(コンコードやキャンティは飲み口こそフルーティだが、意外にタンニンが後口に残るので、調子に乗って飲み過ぎると翌朝には頭痛が残るほど悪酔いする)


塩尻産の赤ワインはコンコード種を使ったものが多いので、相当なワイン好きでないとあれは飲み切れないと僕は勝手に思っている。(塩尻産で僕が飲める赤はメルロー種だけ)


因みにオヤジさんが選ぶ五一ワインはメルローを得意としているので納得。


8月末以降になるとまずは白ワインの新酒が出るのだが、そこでシャルドネと言いたいところだけど・・・僕のオススメはナイアガラ。


「あんなのお子ちゃまの飲むジュースじゃないか!」って言われるかも知れないけど、酔い潰れて寝落ちするまで飲みたくなる程癖になるデザートワインだ。


キンキンに冷やして飲んだら本当に癖になります。


8月末から9月に出る新酒は酸化防止剤無添加もラインナップしているので是非一度味わって頂きたい。


先程はフランスワインは寄ってもいないと言いましたが、シャトー・ラトゥールにシャトー・マルゴーやシャトー・ムートン・ロートシルトなど、フランスの5大シャトーと云われる名門ワインは毎年プレミアがつくほど高価なだけあって美味しい。


いずれも僕の苦手な(笑)カベルネ・ソーヴィニョンが80%前後ブレンドされているワインだが酸化防止剤が入っていても美味しいと感じる訳で、現地で無添加の新酒が飲めたらどれほど幸せなんだろう?って思ったりする。


まさか登山中に知り合った人とワインの話まで盛り上がるなんて思いもよらなかったが、ここでまさかの展開に・・・


白馬まで1時間少々かけて歩くか、いつ来るか判らないバスを待つかするつもりでいた僕をオヤジさんが車で、観光組に待機してもらっている八方第二駐車場まで送ってくれるというのだ。


そう・・・何とオヤジさん、猿倉荘に車を停めているらしい!


何てサプライズだろうか!


別にお互いの登山経験に共感した事や、ワイン談議に華を咲かせた事がきっかけではない。


僕が転倒しかけたオヤジさんのフォローに入った際に、お互いどちらからお越しなんですか?って質問をした時から、オヤジさん的には「足が無いなら送ってあげるよ!」って言うつもりでいたらしい。


実はオヤジさん、過去に黒部源流域の山に富山県側から挑んだ時に随分と山深い登山口から登ったらしく、天候によってはバスが来ないような場所って事もあって、土砂降りの中の下山で完全にグロッキーだったらしい。


藁にもすがる思いで「大きな道路に合流するところまで送ってもらえないでしょうか?」って、たまたま出会った3人組のパーティー(登山口まで車で来ていた)に相談をしたら、快く相乗りさせて頂く事になって・・・


それで麓のどこかで降ろされる訳でも無く、何とオヤジさんの自宅のある京都の木津川まで送ってもらえたんだそうだ。


その時に「同じ悪天候の中を下山した同士だから気にしないで!帰る方角も似たようなものですし、これも一期一会ってやつですから。」と言われたとかで・・・


その3人パーティーは神戸や西宮の人たちだったそうだ。


オヤジさんは自身の転倒を防いだ僕が神戸から来たと聞いて「神戸からの登山者とは縁があるな。これはきっと神戸の人に恩返しをするタイミングなんだろうな。」って、そう思ったそうなんです。


そんな運命を感じるような話を聞かされたらジ~ンとしちゃいますよね。


そういえば初めて穂高岳山荘に泊まった時に食事の席で仲良くなった登山者の一人にも関西から来ている方がいて、天候が荒れてきているのでもしも僕が西穂高までの縦走を諦めるなら・・・「上高地まで一緒に下山しましょう!そしたら平湯温泉に車を停めているので鍋平高原駐車場まで僕が送りますよ!」って言ってもらった事がある。


その時も同席した登山者みんなに言われた事が「一期一会って、これも縁だよね。」って。


結果的に諦めのつかなかった僕は「行ける所まで行ってみてから撤退するか否かを判断します!」って『ロバの耳』の手前まで行ってしまったので、皆さんとは山荘で解散してしまったのですが。


大勢が雑魚寝する大部屋で寝ていたら足に躓かれたり、夜中にガサゴソ音やヘッドランプで起こされたり、食事の席でみそ汁の具を独り占めする人と同席したり・・・


そんな悪縁もあるけれど、奇跡のような良縁も決して少なくはない。


オヤジさんに車で送ってもらえる事になって、僕の肩の荷は随分と軽くなった。


何ならオヤジさんの重たいザックも全部僕が背負って歩きますよ!って言いたいくらい軽やかな気分になった。


アマチュアだろうがプロだろうが、山岳カメラマンなんてしている人は僕みたいな素人から見たら雲の上の存在。(僕は自分でもまだまだ挑戦者の領域だと自覚している)


オヤジさんクラスにもなると、山を誰よりも知り尽くしている達人である。


そんな雲の上の存在が一期一会を大切にしているって、こんなにも感動する事はない。



オヤジさんからは「大雪渓をエスケープにするって決まった時点で頂上宿舎でアイゼンを売っていないか聞けばあったかも知れないのに、それでも尻込みせずに大雪渓をアイゼン無しで下って来たんだから立派だよ。」って、お説教交じりではあるけど労いの言葉も頂けてホッとしたというか・・・


完全に脱力して歩いています。(笑)



「ホ~!ホケキョッ!」


僕の足元くらいの近い距離で鶯が鳴いた。


「こんな至近距離で鶯に鳴かれたのって生まれて初めてなんですけど!」


「ここら辺は登山者しか来ないから、野鳥もそこまで警戒心が強くないんだよ。」


自然を身体全体で満喫!


ダラダラ歩く林道は退屈だけど、自然を満喫している充実感は余りある。




「これってダムの上歩いて行けるんじゃない?」って思ったら、意外に水量があって靴がびしょ濡れになるリスクは否めない事が判明。


オヤジさんは素直に板橋を歩いている。


女性登山者の二人は僕の反応を見て直進が無理だと判断。



まあまあ立派な滝になっているよ。(笑)



落差もあるので落ちたら簡単に死ねそうだ。


結局僕も板橋を歩き、待ってくれていたご婦人2人にお辞儀をする。


オヤジさん曰く「もう半分以上歩いたから、30分もしないうちに猿倉に着くよ!」だそうだ。



11:00ちょうどの事だった。


ズドド~ン!ドドドドドドカ~ン!


ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ~・・・・パリパリパリパリ・・・・


写真は白馬岳~小蓮華山方向を撮ったものだが、大きく長い衝撃音とやはり長くて広範囲なのが判る雷鳴は白馬鑓ヶ岳~唐松岳の方角から轟いた。


尋常じゃない一撃だったと思う。


時間的に計算すると、本来なら僕が不帰ノ嶮の核心部である2峰北峰に差し掛かっているであろうタイミングだ。


これだから山の天候は怖いというか・・・甘く見ていたらどえらい事になる。


あくまで仮定の話ではあるが、もしも強行していたなら・・・誰も歩いていない不帰ノ嶮で、僕は確実に雷のターゲットにされていたであろうという事実。


岩稜帯の稜線を歩いていたら誰にでも漏れなく『避雷針になる権利』がある訳で、恐らくではあるが僕は帰らぬ人になっていた可能性が高い。


頂上宿舎の館長やスタッフさんの説得が無かったら、僕は意地でも強行していたはずなのでこの轟音に生きた心地がしなかったのは言うまでもない。


既に1400m以上の高低差を下山したにも関わらず、足の裏にまで振動が伝わるほどの落雷(雷鳴)なのだから、姿形や性別すらも判別できない程に僕は真っ黒こげにされていたことだろう。


改めて無事に下山できそうな事に安堵するのであった。


次回別れと合流と新たなサプライズ・・・お楽しみに!

2021年9月20日月曜日

後立山連峰縦走の旅7月27日(火) ~その4~ 死闘からの安堵


もう1kmは歩いただろうか?

振り向いたらもうオヤジさんが射程圏内まで追いついて来ている。

こうなると僕はペースを落とさざるを得ない。

➀・・・アイゼンを着けずに歩いている事実を伏せたい自分がいる。
②・・・目の前で僕が転倒なんてしたら、余計な心配をかけてしまう。
③・・・自分がルート上でもたついて進行妨害になりたくない。

そういった理由から、ある程度追いつかれた時点で僕はペイントされたルートから少し外れて立ち、先に行ってもらって十分な距離を作ってから再出発するようにしていた。

これが遅くなるもう一つの根拠。

ここでは落石の心配もあるから、じっとして観光組に電話するゆとりもなく・・・

そしてオヤジさんに追いつかれた。

彼は本当に歩き方が上手い。

アイゼンの使い方も慣れている。

そのオヤジさんに「どうしたの?アイゼン持って来なかったの?そりゃ慎重に歩かないといけないねぇ~。でも慎重に歩けば行けない事も無いから、とにかく気をつけて歩くんだよ。私なんて逆にヘルメットを忘れたもんだから急いでここを離脱しないとね。」って言われて・・・


「そうか・・・慎重に歩けば行けなくはない!か・・・。」


手練れのベテランにそうアドバイスされたら頑張るしかないよね?


とりあえずオヤジさんをある程度見送ってから僕も行動再開。


しばらくはオヤジさんをペースメーカーに頑張るがここでまた1度転倒してしまう。



今度は3人組のパーティーが徐々に追いついて来ているので少しでも距離を稼ごうと、僕も必死で進むが3度目の転倒!


今度はスライディングでしばらく凍結斜面を流されてしまった。


ウェアもドロドロに汚れるし、氷の上での転倒はダメージも大きく、全身が筋肉痛のようになっている。


本当に心が折れそうである。



まだ景色を撮影するモチベーションが残っているだけマシと思えるほど極限状態です。



オヤジさんとの距離も開いてしまいプチパニック。


ここからしばらくは一番傾斜が緩い区間なのでペースを上げる努力をする。


しかし今度は登って来るパーティーが3組あって、1組目を待っている間に後ろの3人組に追いつかれてしまう。


更に登って来る2組目のパーティーと、後ろから追い抜いた3人組が知り合い同士らしく、目の前で井戸端会議になって停滞する。


3組目の女性登山者はものすごく邪魔そうにして登って行った。


僕も痺れを切らしてペイントされていない斜面から迂回する形で井戸端会議を回避。


それで再び1人で誰にも邪魔されずに歩けるかと思ったら、先ほどの3人組が井戸端会議を終えてペースアップしてきたのだ。


全く・・・ペースを乱されてかなわない。


パーティーが抜き去るのをまたコースから外れた場所に立ち止まって待ち続ける。


3人のうち1人は片足しかアイゼンを装着していない。


それでも両足が無いよりは全然マシというか・・・


一度つまづいた後滑って止まらなくなった際に、後ろ向きに構えて片足のアイゼンでガリガリとブレーキして見せて「俺は上級者だから片足でもアイゼンがあったら問題なし!」って言っているのが聞こえて、それがまるで僕に対する当て付けみたいに思えてちょっと腹立たしく思えたり・・・


どうでもいいからとっとと行ってくれよ!って思いながら見送る。



そしてここからまた斜面は急勾配になる。


だが同時にゴール地点と思われる岩場が見えてきた!


オヤジさんがそこでアイゼンを外しているのが遠目に確認できて確信する。


ようやく僕にも無事に踏破できるかも知れないっていう勇気が湧いてきた。



振り返って辿って来たルートを見返す。


当然大雪渓のスタート地点はここからでは見えっこない。


そんなに時間は経過していないはずなのに延々と彷徨い続けた気分である。



9:50大雪渓を脱出!?


緊張から解き放たれて5分以上動けなかった。


過去に初冠雪で凍結した滝谷で滑落しかけた際、僕の命を救ってくれた作業用ゴム手袋もこの通りドロドロである。



スライディングの際の汚れ。


濡れているように見えているのは雪にガイドの為につけた赤いペイントの影響。


子供の頃から相撲をしても絶対に膝を突かない!倒されない!圧倒的に対格差のある相手と組んで寄り切りで負ける事があっても、それ以外で土が付いた事が無い。


そのくらい重心バランスに絶対の自信を持っていた僕が4度も転倒。


こけそうになって反射的に手を突いた数も21回。


まさに死闘でした。


咄嗟の動きで21回も地に突いた手と腕は、緊張が抜けた瞬間激痛が走る。


完全に筋肉痛になってしまいました。


箸もまともに握れないくらいに握力が死んでます。


本来転倒する時は逆らわず自然の摂理に任せて転んでしまえ!とは自転車やスキーの指導でもよく言っている言葉です。


何故なら転ばないように逆らう動きが余計に大きなダメージに繋がるので、逆らうと確実に大怪我をします。(自転車は大破)


それを敢えて逆らって手を突いたのは、滑落を恐れて敢えて強制的にバランスを崩す為だったのですが、アイゼン無しで大雪渓を下るのは想像以上に難しかったという事です。



よくもまあこんな所をエスケープルートにしたものだと思う。


これはどう考えても不帰ノ嶮の方がマシだったろう?


そう思えてならないのでした。


さあ間も無く白馬尻なので、ゴールの猿倉荘目指してあと一頑張りです!



これは三合雪渓という雪渓らしく、ここを登っていけば白馬岳山頂に続きます。



「はあ?」


再出発するなりアイゼンで歩く音が聞こえて驚いたが、大雪渓は本来あそこがゴールのようである。


一瞬「マジで?」とか思ったものの、オヤジさんやさっきの3人組は確実にここでアイゼンを外して歩いていたはずなので行けるはず・・・



まあこんな感じでキワキワの所を歩くのですが、もう雪渓を歩かなくて済んだのでホッとしました。


ただし蛇紋岩には要注意です。


向こうにアイゼンの足音の主が登って行くのが見えています。



大岩に〇のペイントが入っていますが、あれだけだとこの先も雪渓を歩くのか、それともここから別ルートがあるのかが判断できませんね。


やはり白馬大雪渓ルートは初心者にはあまり優しくないような気がします。


ペイントやリボンに頼って歩いている事自体が甘えなのかも知れませんが・・・


そういう意味で僕はこれまで当たり前になりかけていた自分の感覚のズレに気付く事ができて良かったというか・・・



さり気なく振り返ってこの景色を思い出しました。


ここは若き日のGWに幼馴染と2人、積雪2.5m~3mある状況の中、ジーパンにスニーカーでラッセル登山をした(雪を掻き分けたり踏み固めながら登ってきた)場所でした。


その時はここも完全に雪で真っ白で、そんな中にカモシカの糞と足跡が残っていたのが印象的でした。


猿倉荘からラッセルでここまで1時間20分程で登って来ているので、今思えば尋常じゃないスピードだったと思います。


当時もアイゼンはおろかスノーシュー(かんじき)も装備せずに来て、ピッケルを持ったオッチャンに「こら~!お前ら雪山をなめとんのか~!」と怒鳴られた場所でもあります。


そもそも僕は防寒着どころか上半身裸になって走り回り、クレバスになった雪渓の亀裂も走って飛び越えるという傍若無人ぶりで、まさに若気の至りの極みでした。(笑)


結局僕はブーツカットの裾を少し濡らしただけで済んだのですが、幼馴染は靴の中にまで雪が入ってびしょびしょになってしまい、下山後ひどい霜焼けになり慌てて『おびなたの湯』(近くの温泉)に行って足を癒す事になる。


そして靴を濡らさずに歩くという賭けに勝った僕は幼馴染から湯上りに冷たい缶コーヒーを御馳走になったという思い出。


若い時はとことんバカな事を、それも真剣にやっていたのが懐かしいです。


新穂高の川の近くでキャンプしていたら夜に突然豪雨になって、「何かお尻が冷たいなぁ~」って目が覚めたらテントごと雨で流されかけていて、慌てて幼馴染を叩き起こして荷物を車に運んでもらい、その間に僕がテントを畳んで撤収・・・


その後車で長野県入りし、松本電鉄の『新島々駅』の駅舎で常駐の駅員さんに許可を頂いて携帯を充電させてもらったり、濡れた服を乾かしたり、コンロで湯を沸かしてパスタを茹で、更にその茹で汁でクラムチャウダースープを作って・・・(今だったら絶対に許可してもらえないだろうなぁ)


まあそんな若き日の思い出を刻んだ場所を久々に・・・それも雪の無い時期に歩くなんて不思議な気分です。



そうそうこの辺でカモシカの痕跡を見つけたんだったなぁ~。



夏場はこんなにガレた歩きにくい道なんですねぇ~。


そして小雨がぱらつき始めてきた。



「おっ!なんだ?」


写真を撮影する頃には落ち葉の下に潜り込んで見えなくなってしまったが、何かの鳥のヒナが歩いていた。


珍しくて撮影しようとしていたら親鳥らしき鳴き声がずっと僕の上から聞こえていて・・・


「いやいや、ヒナを襲ったりしないからそんなに警戒しないでくれよ!」って苦笑い。



ものすごい轟音で流れているのは大雪渓の恵みともいうべき松川の源流。



いっそあの川に流されて白馬まで運んでもらえないものだろうか?と考えてしまう。



ここの林を抜けたら白馬尻小屋があるはず・・・


現在時間は10:19です。


どのくらい遅れるかな?


猿倉荘からはバスも出ていますが、道が極端に狭いうえに距離もあるので、1時間に1本あるかどうか・・・


場合によっては観光組に猿倉荘まで迎えにきてもらう?


いやいや、狭くて危険な一本道なので極力走らせたくない。


猿倉荘からおびなたの湯までどのくらいで歩けるだろうか?


そんな事を計算しながら歩いていました。


次回いよいよ下山です。


『一期一会』の奇跡とやらに出会います。


お楽しみに!

後立山連峰縦走の旅7月27日(火) ~その3~ 恐怖の白馬大雪渓

 

葱平(ネギダイラではなくネブカビラと読む)後半の下りはルートファインディングが定まらないので、意外に難易度は高め。


もっと〇×のペイントがあってもいいようなものだが・・・


逆にどこを歩いても大丈夫!って解釈でいいのかな?(汗)


向かうべき大雪渓は正面に見えているので大丈夫でしょ?って話だと不親切にも感じる。


大雪渓へのアプローチは雪渓の規模によって侵入ポイントが変わるので、春と夏、秋では全く異なる。


冷静に観察しないと安全なルートを見つけられない。



これは小雪渓の先端から湧いて来る雪解け水。


ここからはしばらく沢歩きになるので滑りやすい蛇紋岩には要注意!



振り向いたらようやく〇のペイントが施された岩を1つ発見!


今通って来たルートは正しかったという裏付けになる。



写真向こうに1段棚になった箇所に池が見える。


その左上にもう一つ池が太陽光に反射しているのが確認できるが、それが栂池自然園の展望湿原なので、前日に観光組が大雪渓を撮影した場所がそこである。


まさか自分があんな急斜面(後日観光組が撮影した写真を見て)を今歩いているなんて・・・全く自覚なし。


僕は緩やかなダラダラした道よりも、岩ゴツゴツの険しい道の方が水を得た魚になれる。



途中ぬかるんだ灌木帯も歩くのだが・・・



靴が汚れてかなわない!


僕には子供の頃から変な習性があって、どんな険しい道を歩いたとしても靴や服を必要以上に汚さない事に美学を感じているところがある。


これは・・・自分的にはアウトだ。


自分の登山靴に申し訳ない気持ちで歩く。



よく見たら大雪渓に他人の歩いた踏み跡や赤いペイントが見えている。


それに単独の登山者や数名のパーティーが歩いているのもここから確認できる。



この角度で写真を撮ったら今自分がどのくらいの急斜面を下っているのかが判断できる。



この辺は相変わらずペイントが少ない。


薄くなった矢印が2方向に向けられているが、あれはその先の灌木帯をどちらから巻いてもいいよ!って意味である。



高山植物も大半が終わりを迎える時期ですね。


8月はニッコウキスゲがあるから鮮やかだけど、9月にはマツムシソウくらいで、言っているうちにナナカマドの実が赤みを帯びて少し早い秋が訪れる。


旅行会社でバスツアーを作っていた頃、霧ヶ峰のコースを紹介するにあたってパンフレットの色彩を気にする余り、よく(鮮やかな)花の種類が少ないと愚痴っていたのが懐かしい。



いよいよ葱平も大詰め。


このほぼ垂直の九十九折りを下って左の沢にかかった板橋を渡り、あの左の斜面から大雪渓にアプローチと判断できる。


それにしても大雪渓への落石の多さが気になる。


もちろん僕は既にヘルメットを装備しています。



大雪渓のアプローチは元々この正面からなのが赤いペイントの跡でも確認できる。


しかし上部が見ての通り雪渓が溶けてスノーブリッジ化してしまっているので、下手に歩いたら踏み抜いてさようならになる可能性が高い。


なので写真左中央付近のガレ場から新たなペイントが設けられているのが見える。


ようするにあそこへ行けという訳だ。



落石危険!と言いながらその沢を渡らせるとか・・・(笑)



渡った後はこんな落石しそうな場所を歩きます。



このまま岸へ降りて行く感じかな?って思わせといて・・・



そうきたか!


なぜわざわざ左へ巻くんだろう?



そしてわざわざこんな所を下らせる意味って何?(笑)



うわっ!オヤジさんが追い付いてきた!


見える距離に来ないうちに大雪渓に侵入したかったのに参ったなぁ~。



アプローチポイントはもう目と鼻の先。



緩やかに見えるここでさえこの斜度なので、アイゼン無しで歩くのはかなり無謀である。



何より恐怖なのは落石。



常時杓子岳の尾根からガラガラゴロゴロと無数の落石が落ちて来るのが現在進行形で見える。


なかなか洒落になってない怖さである。


これを観た瞬間、先ほど天狗菱を見て軽々しく登ってみたいと思った事を反省。


僕がよく行く穂高連峰でも涸沢カールでは4月下旬の開山後から7月にかけては、こういった大雪渓を登って行くのだが、アイゼンを装着していても刺さりが浅い事が原因で滑落し、そのまま下まで雪崩れ落ちて行く事故が度々起こるらしい。


新雪やシャーベット状の場合は歩きやすい代わりに雪崩の心配が必要だが、一旦表面が溶けてから夜間の間に凍った夏の雪渓はとにかく滑る。


大抵の場合はピッケルを使ったり、背中から落ちてもザックがブレーキの役割をしてくれて大事に至らないケースが多いのだけど、時に止まらずに滑り落ちて、最悪の場合他の登山者を巻き沿いにして両者死亡なんて事例もある。


重力加速度がついて加速したまま大岩に激突したり、或いは落石が直撃なんて事になったら人の頭は簡単に割れて姿形も無くなってしまうのだ。


槍穂高の山々に関わるようになってからそんな話を聞くようになった僕としたら、今一番緊張の瞬間だったりする。



何とかここまでは転ぶ事なく下ってきたが、追手の姿も見えてきたので気持ち焦る。(笑)


薄っすらと赤い色が付いているのがガイドのペイントである。


概ねこれに沿ったコースを歩く事が安全とされている。



ずっとガラガラと落石が転がり落ちて来る。


大きな落石でも来ようものなら、アイゼンも無く敏捷性を欠いた僕に逃げ場はない。


その場合は一か八かの決死のダイブを試みて大雪渓の急斜面を滑り落ちるしかないか・・・


とてもリスキーな状況で落ち着きません。



ゴールが見えません!


ただ徐々に傾斜がきつくなるって事くらいしか判断できません。


葱平から見ていた時はスキー板を持って来ればよかったなぁ~なんて思っていたけど、こんなガリガリのアイスバーン・・・しかも落石まみれの斜面なんて滑ったら板がボロボロになってしまいます。


白馬大雪渓の全長は約3km。


まだ500mも歩いていないから気が遠くなってしまいそう。



これが大雪渓の表面の写真。


半透明になっているところは完全な氷です。


白い所の面積が広い場所を選んで、爪先やかかとでほぐしながら踏んでいきます。


でもこの時点で既に一度大きく滑って尻もちをついています。


危うく手を突いて転倒を免れた回数も7回。


滑って180度身体の向きを変えて止まった回数も2回。


アイゼン無しで大雪渓を歩くのは想像以上に難しいです。


後悔先に立たずとはいえ、正直無謀なチャレンジをした自分に対する後悔しかありません。



土や枯れた植物の残骸、落石は滑り止めに有効なので、極力滑り止めに有効な場所を探りながら歩いていますが、それでも何回かに1回は当てが外れて滑ったりするので、気を緩める隙が全くありません。



もう歩きたくない!がこの時の本音。


無事にここを歩き切る自信がないというか、ペースも上がらないしすべてにおいてスマートじゃない。


辛酸を嘗めるとはまさにこの事を言うのだろう。


失策中の失策!


これだったら不帰ノ嶮に強行した方がマシだったんじゃないか?


こんなにカッコ悪くて情けない山行はない!


観光組には早ければ10時過ぎには猿倉荘に着くので、白馬まで歩いて下山したとしても11時~11時半くらいには到着予定かなぁ~って言ったものの、この時点でもう9時を回ってしまった。


果たして怪我無く無事に下山できるのでしょうか?


次回へ続く。