2021年10月8日金曜日

後立山連峰縦走の旅7月27日(火) ~その5~ 轟く雷鳴・・・そして受け継がれる山の一期一会

 

ここは本来『白馬尻小屋』の設営されているはずのポイント。


今年はコロナ渦なので営業していない模様。


ここのすごいところは毎シーズン(7月~9月)僅か3ヵ月間だけの営業なのに、毎回建物を一から設営し秋には全て撤去するってところ。


大雪渓という場所柄、冬季は雪の重みに耐えられない可能性があり、初夏には雪崩に流されてしまうという懸念があるからなのだろう。



これは同じ場所の写真だが・・・本来ならこんな感じの風景で、僕もできれば軽く食事でも食べてから下山をしたいと考えていたのだが、コロナで休業とあれば致し方ない。


白馬尻の北側の風景。


白馬沢の向こうには小蓮華岳がそびえているのだが、雲に覆われて見えない。


ところでこの白馬尻で再びオヤジさんに再会する。


ここで再び会ったのも何かの縁って事になって、一緒に下山する事にしました。


白馬尻から猿倉荘まではヤマケイマップのコースタイムでは1時間。


オヤジさんも1時間くらいだと言っている。


オヤジさんは岩場の急峻な道なら歳の差とか関係なくテクニックで速く歩けるけれど、緩やかな林道やガレ道になったら、歳で体力も脚力も落ちてるから速く歩けないんだと言っていました。


恐らく僕一人なら35~40分程度で歩けるはずなんですけど、今更急いだところで到着時間に大差が無いので・・・


一人で歩くよりも誰かと会話を楽しみながら歩く事を選択。



それにこの辺りはまだまだ蛇紋岩も多く、70代のオヤジさん一人で歩かせるのはちょっと心配。


実際にこの後2度滑って転倒しかけている。(いずれも僕が後ろから滑り込んでザックごとキャッチし未然に防いだ)


そういう訳で僕はお節介も兼ねて後ろから同行する。



それにしても山岳カメラマンの荷物は重いし大きい。(15kg以上の荷物が入っている)


ふらつく度に距離を詰めたりしながらサポート。


そうは言ってもオヤジさんは登山の大先輩でもある。


昔は奥さんとも薬師岳やら雲ノ平やらを登った話を聞いたりして、どのルートで登ったとか景色で一番感動した場所はどこか?って話をしながら楽しく歩く事ができました。


そんな大先輩に率直な意見として、「今日は大雪渓をアイゼン無しに下山したのが正解なのか?予定通り不帰ノ嶮に行くのが正しかったのか?」と聞いてみたのですが、「まあこの時点で言えるのは不帰でも行こうと思えば行けたかも知れないって言うだけで、それは可能性の話。油断すれば蛇紋岩で滑って滑落するかも知れないし、天気が荒れていたらこんな問答もできなかったかも知れないし・・・。」と返ってきて、やはり答えなんて無いよなぁ~って納得するしかなかった。


要は生きて無事に帰る事が全てにおいて正解なのである。


その時は不完全燃焼で悔しさが残っても、生きてさえいればいずれは再挑戦できる。


しかし無理に決行して死んだらそこですべてがおしまい。


天候の変わりやすい高山では運も孕んでいるから、結果論でしか正解か否かなんて知る由もないっていうのがこの登山ってやつなのだ。


毎回思うけど登山って本当に奥が深い。



オヤジさん的にここらの写真なんていうものは今更撮るまでもないって感じ。


白馬岳の稜線で雷鳥を見たらしく早朝4時から撮影して、下山時には葱平(ねぶかびら)までの道中で花という花を撮影しまくっていたので、十分な収穫はあったのでしょう。


山岳カメラマン協会が開催する展示会とやらに毎年新作を出展しないといけないらしく、今後年齢的にも体力的にも山頂まで登れなくなった時の為に、作品の撮り貯めをしているのだと言っていました。



将来的に山岳カメラマンとかやってみたいなぁ~って憧れている僕に至っては、まだまだ素人感覚が抜け切っていないので・・・こんな清流でさえ癒されるからってつい撮影してしまう訳だ。


それにしてもここらの水はどこで汲んで飲んでもクリアな清涼感があって美味しい。


大人になってから居酒屋で酒を知った人なら大抵『長野県の酒』と言えば真澄(ますみ)だろ?って言いそうなんだけど、僕は旅行で行く先々の酒屋やお土産屋さんで祖父への土産に日本酒を買っていた経緯があって、その土地の酒っていうものに子供の頃から関心があったんですよね。

確かに真澄も八ヶ岳や霧ヶ峰等の山の恵みともいえる諏訪の地下水(伏流水)を使っているはずなので飲みやすくて美味しいお酒ですが、僕は大雪渓というお酒が好きで・・・詳しく年齢は言えませんが若い頃から大雪渓の大吟醸を好んで飲んでいました。


真澄にしても大雪渓にしても冷酒で飲めるタイプが大好きです。


口当たりはまろやかですがキリッと辛口なので、美味しいお刺身と一緒に呑むのがオススメです。


とはいえ大雪渓の酒蔵って実は大王わさび農場から程近い池田町にあるので、大町よりも南にあたるんですよね。


美味しい水の摂れる水系が周辺に多過ぎて、どこの水を使っているのか判らないので、白馬大雪渓の水ではない可能性は高い。


安曇野って土地柄、松本の酒蔵同様に槍穂高の恵みである梓川の水かも知れないし、高瀬渓谷の水かも知れない。


長野県のお酒とはいえ大吟醸などの看板酒には兵庫県産の山田錦を使っているっていうのはどこの酒蔵も共通で、あとは地元長野県産の美山錦を使っているお酒が代表的かな。


僕は大人になってから(車の運転が命過ぎて)お酒を飲まなくなってしまったので、若い時のようなテイスティング能力は失われてしまったかも知れませんが、たまに美味しいお酒を無性に飲みたいと思う事があります。


そういえばオヤジさんはワインが好きらしく、この日も帰りに塩尻に寄り道して『五一ワイン』のセラーで奥様へのお土産を買うのだそうだ。


塩尻は山梨に次ぐブドウとワインの生産地。


個人的には仕事で付き合いのあった『信濃ワイン』や『井筒ワイン』を推したいところだが『五一ワイン』を選ぶ人にそんな野暮な話はできない。


さすがは大先輩、選ぶワインセラーもマニアック(塩尻のワインを良く知っている)!


僕の家は父親までが小樽出身だったので子供の頃から余市のワインや、親戚のいる帯広からも近い池田のワインなどに馴染みがあって、赤も白もロゼも各地の物を色々飲み比べたてきたのだが・・・


やはり国産ワインなら山梨か長野のが一番美味しい!(酸化防止剤まみれの御フランス産は寄ってすらもいない)


個人的には山梨にある『ドメーヌQ』のピノ・ノワールが一番好きだが、過去にコンコードやカベルネ・ソーヴィニョン、キャンティといったブドウから作ったワインで悪酔いしてから僕はワインを敬遠するようになってしまった。(コンコードやキャンティは飲み口こそフルーティだが、意外にタンニンが後口に残るので、調子に乗って飲み過ぎると翌朝には頭痛が残るほど悪酔いする)


塩尻産の赤ワインはコンコード種を使ったものが多いので、相当なワイン好きでないとあれは飲み切れないと僕は勝手に思っている。(塩尻産で僕が飲める赤はメルロー種だけ)


因みにオヤジさんが選ぶ五一ワインはメルローを得意としているので納得。


8月末以降になるとまずは白ワインの新酒が出るのだが、そこでシャルドネと言いたいところだけど・・・僕のオススメはナイアガラ。


「あんなのお子ちゃまの飲むジュースじゃないか!」って言われるかも知れないけど、酔い潰れて寝落ちするまで飲みたくなる程癖になるデザートワインだ。


キンキンに冷やして飲んだら本当に癖になります。


8月末から9月に出る新酒は酸化防止剤無添加もラインナップしているので是非一度味わって頂きたい。


先程はフランスワインは寄ってもいないと言いましたが、シャトー・ラトゥールにシャトー・マルゴーやシャトー・ムートン・ロートシルトなど、フランスの5大シャトーと云われる名門ワインは毎年プレミアがつくほど高価なだけあって美味しい。


いずれも僕の苦手な(笑)カベルネ・ソーヴィニョンが80%前後ブレンドされているワインだが酸化防止剤が入っていても美味しいと感じる訳で、現地で無添加の新酒が飲めたらどれほど幸せなんだろう?って思ったりする。


まさか登山中に知り合った人とワインの話まで盛り上がるなんて思いもよらなかったが、ここでまさかの展開に・・・


白馬まで1時間少々かけて歩くか、いつ来るか判らないバスを待つかするつもりでいた僕をオヤジさんが車で、観光組に待機してもらっている八方第二駐車場まで送ってくれるというのだ。


そう・・・何とオヤジさん、猿倉荘に車を停めているらしい!


何てサプライズだろうか!


別にお互いの登山経験に共感した事や、ワイン談議に華を咲かせた事がきっかけではない。


僕が転倒しかけたオヤジさんのフォローに入った際に、お互いどちらからお越しなんですか?って質問をした時から、オヤジさん的には「足が無いなら送ってあげるよ!」って言うつもりでいたらしい。


実はオヤジさん、過去に黒部源流域の山に富山県側から挑んだ時に随分と山深い登山口から登ったらしく、天候によってはバスが来ないような場所って事もあって、土砂降りの中の下山で完全にグロッキーだったらしい。


藁にもすがる思いで「大きな道路に合流するところまで送ってもらえないでしょうか?」って、たまたま出会った3人組のパーティー(登山口まで車で来ていた)に相談をしたら、快く相乗りさせて頂く事になって・・・


それで麓のどこかで降ろされる訳でも無く、何とオヤジさんの自宅のある京都の木津川まで送ってもらえたんだそうだ。


その時に「同じ悪天候の中を下山した同士だから気にしないで!帰る方角も似たようなものですし、これも一期一会ってやつですから。」と言われたとかで・・・


その3人パーティーは神戸や西宮の人たちだったそうだ。


オヤジさんは自身の転倒を防いだ僕が神戸から来たと聞いて「神戸からの登山者とは縁があるな。これはきっと神戸の人に恩返しをするタイミングなんだろうな。」って、そう思ったそうなんです。


そんな運命を感じるような話を聞かされたらジ~ンとしちゃいますよね。


そういえば初めて穂高岳山荘に泊まった時に食事の席で仲良くなった登山者の一人にも関西から来ている方がいて、天候が荒れてきているのでもしも僕が西穂高までの縦走を諦めるなら・・・「上高地まで一緒に下山しましょう!そしたら平湯温泉に車を停めているので鍋平高原駐車場まで僕が送りますよ!」って言ってもらった事がある。


その時も同席した登山者みんなに言われた事が「一期一会って、これも縁だよね。」って。


結果的に諦めのつかなかった僕は「行ける所まで行ってみてから撤退するか否かを判断します!」って『ロバの耳』の手前まで行ってしまったので、皆さんとは山荘で解散してしまったのですが。


大勢が雑魚寝する大部屋で寝ていたら足に躓かれたり、夜中にガサゴソ音やヘッドランプで起こされたり、食事の席でみそ汁の具を独り占めする人と同席したり・・・


そんな悪縁もあるけれど、奇跡のような良縁も決して少なくはない。


オヤジさんに車で送ってもらえる事になって、僕の肩の荷は随分と軽くなった。


何ならオヤジさんの重たいザックも全部僕が背負って歩きますよ!って言いたいくらい軽やかな気分になった。


アマチュアだろうがプロだろうが、山岳カメラマンなんてしている人は僕みたいな素人から見たら雲の上の存在。(僕は自分でもまだまだ挑戦者の領域だと自覚している)


オヤジさんクラスにもなると、山を誰よりも知り尽くしている達人である。


そんな雲の上の存在が一期一会を大切にしているって、こんなにも感動する事はない。



オヤジさんからは「大雪渓をエスケープにするって決まった時点で頂上宿舎でアイゼンを売っていないか聞けばあったかも知れないのに、それでも尻込みせずに大雪渓をアイゼン無しで下って来たんだから立派だよ。」って、お説教交じりではあるけど労いの言葉も頂けてホッとしたというか・・・


完全に脱力して歩いています。(笑)



「ホ~!ホケキョッ!」


僕の足元くらいの近い距離で鶯が鳴いた。


「こんな至近距離で鶯に鳴かれたのって生まれて初めてなんですけど!」


「ここら辺は登山者しか来ないから、野鳥もそこまで警戒心が強くないんだよ。」


自然を身体全体で満喫!


ダラダラ歩く林道は退屈だけど、自然を満喫している充実感は余りある。




「これってダムの上歩いて行けるんじゃない?」って思ったら、意外に水量があって靴がびしょ濡れになるリスクは否めない事が判明。


オヤジさんは素直に板橋を歩いている。


女性登山者の二人は僕の反応を見て直進が無理だと判断。



まあまあ立派な滝になっているよ。(笑)



落差もあるので落ちたら簡単に死ねそうだ。


結局僕も板橋を歩き、待ってくれていたご婦人2人にお辞儀をする。


オヤジさん曰く「もう半分以上歩いたから、30分もしないうちに猿倉に着くよ!」だそうだ。



11:00ちょうどの事だった。


ズドド~ン!ドドドドドドカ~ン!


ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ~・・・・パリパリパリパリ・・・・


写真は白馬岳~小蓮華山方向を撮ったものだが、大きく長い衝撃音とやはり長くて広範囲なのが判る雷鳴は白馬鑓ヶ岳~唐松岳の方角から轟いた。


尋常じゃない一撃だったと思う。


時間的に計算すると、本来なら僕が不帰ノ嶮の核心部である2峰北峰に差し掛かっているであろうタイミングだ。


これだから山の天候は怖いというか・・・甘く見ていたらどえらい事になる。


あくまで仮定の話ではあるが、もしも強行していたなら・・・誰も歩いていない不帰ノ嶮で、僕は確実に雷のターゲットにされていたであろうという事実。


岩稜帯の稜線を歩いていたら誰にでも漏れなく『避雷針になる権利』がある訳で、恐らくではあるが僕は帰らぬ人になっていた可能性が高い。


頂上宿舎の館長やスタッフさんの説得が無かったら、僕は意地でも強行していたはずなのでこの轟音に生きた心地がしなかったのは言うまでもない。


既に1400m以上の高低差を下山したにも関わらず、足の裏にまで振動が伝わるほどの落雷(雷鳴)なのだから、姿形や性別すらも判別できない程に僕は真っ黒こげにされていたことだろう。


改めて無事に下山できそうな事に安堵するのであった。


次回別れと合流と新たなサプライズ・・・お楽しみに!

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