レースは11:30開始ではありますが、個人タイムトライアルは3分置きに一人ずつスタートするスタンスなので、出走順毎に各々がウォーミングアップを始めます。
トップでスタートする選手が10:40頃から固定ローラーを回し始めました。
僕が富士スピードウェイに到着してから約2時間半後の話です。
ようやくパドック内と報道陣の動きが慌ただしくなってきました。
場内には空撮部隊のヘリの音も複数響いています。
まるでこれからF-1の予選中継でも始まるかのような空気で、観ているこちらまで緊張感が伝わってきます。
さっきまで山への未練が抜け切らなくて、内心「もう五輪の観戦で夕方までここに缶詰めにされるなんてマジ怠いんですけど~。」などと思っていた僕ですが、ようやくレース観戦に集中したい気分に切り替わってきました。
ローラー台ではなく実際にフリー走行で身体を温める選手も出てきました。
巨大スクリーンには本を読んでリラックスしている選手の姿も映っています。
タイムトライアルという競技の性質上、精神統一も大切なルーティーンだと言えます。
選手各々が自身のパフォーマンスを100%発揮する為に準備しているのが見れるのって貴重な体験だと思いませんか?
僕もレース前にはストレッチやアミノ酸の摂取、更には周りの選手の顔ぶれを見て、スタート直後にどんな展開になるかを予想し、その際に自分がどのラインで走るかを3通りか4通りくらい想定して、その先のコーナー或いは激坂にトップで侵入するにはどのパターンが理想的で、そうでない場合はどこで仕掛けたら挽回できるかをイメージするようにしていましたが、それはマスドスタートレースの場合の話であって・・・
タイムトライアルの場合、混戦はしないのでコースの特徴さえ把握しておけば、どこでどのギア設定でケイデンス(回転数)をどの程度に維持して・・・「ここの上りは気分転換にリズムよくダンシング(立ちこぎ)を入れてみようかな?」とか、コースを如何に効率よく走ろうか?ってシミュレーションが大切になってきます。
意外と戦略的な要素が多いので、どの区間でどんなギアを選択するかなど、あれこれシミュレーションしている瞬間は、それによってどの程度のタイムを狙えるかって期待も膨らんでくるので本当にワクワクして楽しいし、集中力が高まっていくのが自分でも感じられたりします。
例えば僕も現役の時にやっていた事なのですが、ヒルクライムやタイムトライアルの際にハンドルやステムにカンペを張り付けて走る選手もいます。
走り慣れたコースの場合はコースを区間分けして、各区間タイムを設定してカンペにします。(人によっては使うギアやケイデンスを書いている場合もある)
それを見ながらタイムの貯金や借金といった計算をしながらペースコントロールができるので、なかなか効率的に走れたりするものなのです。
そういったレースの裏側について書いている記事とか最近の自転車情報雑誌でも見る機会が少なくなったように思いますし、ある一時から自転車人口が急激に増えたものの、ロードバイクやクロスバイクの見た目とかブランドとか、自転車で食べに行けるお洒落なレストランやカフェの特集とか・・・ビジュアルばかりが独り歩きしてしまって、肝心な自転車レースにおける人間臭さとか歴史やロマンについては随分とすっ飛ばされたんじゃないかな?って思う事が少なくありません。
だから尚更かも知れませんが、自転車屋なんて経営しておきながら、今どきの自転車乗りを見ていて違和感を感じる自分がいるんですよね。
どうにも軽薄というか、スポーツバイシクルは単なるファッションアイテムのような扱いで、そのくせ整備にお金をかける訳でもないので自転車に対する愛着が感じられない。
整備で持ってくる自転車とかよく見たらドロドロでガタガタ、錆だらけだったりするものが多い。
そのうえネームバリューや価格にばかり囚われて、分不相応な自転車に乗っている人も増えた気がします。
最悪なのが高価な自転車を買わされたにも関わらず、購入店の知識や対応が不十分なケースも多く、サイズの合っていないロードバイクに乗っている人や、セッティングの合っていないまま乗っている人なんていうのもよく見受けられます。
またウェアとか形から入っている人も多く、一見速そうに見えたり玄人っぽく見える人も多いのだけど、じっくりと走っている姿を見ていると手信号などの意思表示ができない人や、周りに気遣いのできていないライダーも少なくはない。
しまなみ海道などにグループで走りに行ってレースまがいの暴走をしている連中もいれば・・・
道を譲り合ったり、声掛けをしたりといった事を苦手とする『内向的なライダー』も随分と増えたように思えますしね。
それだけにレース会場でこういった選手たちの人間臭さを身近に感じられる映像はとても良いですね!
何度も言いますが自転車はファッションではなく文化です。
自転車ロードレースはヨーロッパにおいて150年以上の歴史があります。
選手たちのジンクスに対する考えやルーティーンといった行ないについては国によっての違いや、地方によっての違いもあって、知れば知るほど面白いものだったりします。
日本人選手と欧米人選手の補給食や、そもそも朝食の違いなど、身体の作り方が外見的なものだけではなく、内面から根本的に違う事なども学んでいけば、もっとロードレースの楽しみ方も幅広くなると思うので、実際にヨーロッパのチームで走っていた選手OBのコメントなども参考にしてもらいたいなぁ~と思う事が多々あります。
そういう意味では五輪に限らず、わざわざ自転車レースを観戦しに来る人って、その辺の知識は勿論の事、少なくとも自転車文化を愛する人が多いと思うので、業界的にも最も大切にしないといけないファン層ですよね。
いよいよレースがスタートしました。
このタイムトライアルのスタート台って、上ってスタンバイする時はものすごく緊張します。
係りの人にサドルを支えてもらいながらペダルのビンディングを装着してスタートの準備を整えるのですが、そこからカウントダウンに入った瞬間、呼吸を整えて瞬時に集中力が高まるんですよね。
このスイッチが入る瞬間の充実感ってたまらなく心地良いんですよ。
第一走者がスタート!
スタート地点はホームストレートのはるか向こう!
遠過ぎて観客席からは見えません!
観客席の一番端まで行きましたが、それでもこんなにスタート台が遠く・・・
望遠ズームでようやくこんな感じ。
この時僕が歩いてきた途中で、まさかのペーター・サガン選手が観戦に来ていたそうですが、僕は気付かずに撮影に夢中になっていました。
最近のロードレースで僕の推しの選手ってそんなにはいないのですが、すでにベテランの域に入っているペーター・サガン選手は数少ない好きな選手の一人だったのでお会いできなくて残念です。
彼はアマチュアの頃にシクロクロスやマウンテンバイクのレースでも活躍していた経歴があるからだと思いますが、バイクコントロールがとにかく卓越していて、そういう選手のライディングって見ていて楽しいものです。
いったん会場から走り出した選手にはオフィシャルカーがついて走り、常にこのような実況がモニターで確認できます。
個人タイムトライアルは中間タイム計測ポイントが複数あるので、登坂中心の区間とスピードの乗ってくる平地中心の区間とで選手個人の得手不得手を事前に知っておくと、より楽しみ方が解って面白くなる。
日本では馴染みの薄い女子ロードレースの場合、選手の詳細な情報は少ない。
そういう情報が少ない場合は、身体が小さくて華奢な選手は基本的に登坂に強く、大柄でリーチの長い選手はパワーとスピードがあるので平地に強いというのが一般的な見方となる。
理屈はこうだ・・・
小柄な選手は自転車と体重の総重量が軽いので、軽さこそが正義ともいえる登坂では圧倒的にアドバンテージが高い。
逆に大柄な選手は重量が重たい分、一定速以上に加速をしたら速度が伸びやすい。
特に下り区間では重力加速度も味方してくれる。
何より手足のリーチが長い分、重たいギアもテコの原理を活かしてガシガシ踏んでいけるので、風の影響さえ考えなければ平地では圧倒的に有利である事が容易に想像できます。
言っているうちに最初にスタートした選手から次々にサーキットに戻ってきます。
女子の個人タイムトライアルは22.1kmの距離なので、起伏に富んだコースである事を踏まえても30分台前半のタイムで争われる事は確実です。
選手が戻って来ると観客席からも歓声と拍手が響きます。
ピットロードから入ってサーキットを1周したらゴールです。
スタートは3分おきにしているので、会場(サーキット)に戻って来た時に前の選手との間隔を見たら後ろの選手がどのくらい速いのかが判断できます。
そんな訳で最初にスタートした選手たちが会場に戻ってきたタイミングで、まだスタート待ちの選手もいるという光景。
ただし後半スタートの選手ほど優勝に近い選手ばかりなので、言ってみたらある意味ここからが本番!
ここで大きな歓声と拍手が!
日本代表の与那嶺選手がゴールするみたいです!
34分34秒~35秒付近でゴールしたっぽいのですが、ゴールアーチの電光掲示板には前にゴールした選手のタイムから切り替わらず・・・
五輪ですから一切の贔屓もしてはならないフェアな国際試合ではありますが、せっかくの自国開催なんだから・・・自国の代表選手の頑張りをもっと盛り上げて欲しいですよね?
ちょっとこの時の電光掲示板係にはモノ申したい気分になりました。
本調子を発揮したとは到底思えない結果だったかも知れませんが、3日前にロードレースも走ってますので・・・よく頑張ったと思います。
観客席からも大きな拍手と声援でその走りを労いました。
与那嶺選手お疲れ様です!
レースの中盤以降は33分を切るか切らないかってタイムで競い合っていたのですが・・・
レース終盤はいよいよ32分台や31分台のタイムを叩き出す選手も出てきて会場が盛り上がってきました。
アメリカのネーベン選手がそれまでのトップタイムを1分11秒も更新して31分26秒でフィニッシュした瞬間。
会場には大きなどよめきが・・・と思ったら。
そこから間も無くオランダのファンフルーテン選手が更に1分12秒以上も更新して一人だけ異次元のタイムでフィニッシュ!
まるで花火大会でも観に来ているかのようなどよめきと歓声のオンパレード。
途中経過でもファンフルーテン選手の怒涛の走りは紹介されていたけれど・・・
一人だけ30分13秒なんてタイムを叩き出すとか・・・
3日前のロードレースでは・・・優勝したつもりでゴールしたら、実は伏兵の選手に先にゴールされていた・・・っていう経験をしたばかりなので、ここぞとばかりに女王の力を見せつけて雪辱を果たした!って感じでしたね。
その後に出走していた5選手も速かったのですが、ファンフルーテン選手のタイムが圧倒的過ぎて誰も更新できずにレースは終了!
ファンフルーテン選手が表彰台に向かっています。
他の2選手はまだです。
銅メダルを獲得した同じオランダのファンデルブレーヘン選手は自転車ではなく自分の足で走ってきました。
ファンフルーテン選手の自転車はキャニオンか・・・
卸業者(一応キャニオンジャパンという名前で日本向けの代理店は存在している)や販売店を介さずネット販売オンリーのブランドなので業界的にも日本経済的にも害虫みたいなメーカーです。
そりゃ卸も販売店も介さないのであれば中間マージンが無い分、消費者にはP社やS社やT社、C社よりかは幾分か安く手に入る訳だ。
って考えたら尚更なんだけど・・・メーカーの利益率って相当高いよね。
販売価格が安いとはいえ卸も介してないのにフレーム価格が50万円以上するんだから。
そんな訳でどんなに良いフレームであろうが、強いプロチームが使用していようが、キャニオンは嫌い!日本から消えてなくなれ!なんて思っていたりする。
与那嶺選手は残念ながら本領を発揮できませんでしたが、世界との壁の厚みはまだ相当あるというのがこのリザルト表で判ります。
しかし後半に出走した選手がどんどんタイムを塗り替えていく様子は現地で観ている方が臨場感もあって興奮しました。
ファンフルーテン選手だけが男子並みのタイムで異次元の結果でした。
女子の表彰式が始まりました!
この後は少し時間を置いてから男子のスタートです。
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