唐突にそう言って入店してきた男性。
「どういった事情ですか?」
「ハンドルが動くから取り付けしたいんや。置いてるか?」
「いえ、通常はそんな部品置いていませんよ。基本的に補修パーツですから。」
「取り寄せはできるの?」
「どの自転車に付けられるんですか?」
「この自転車やねんけど。」
それは使い込んだ折り畳み自転車でした。
こういったニーズのお客様は少数派なので対応に困る場合がある。
過去にハンドルロック付きの自転車が事故でフロントフォークを曲げてしまったというお客様の応対をした際の話。
「購入後間もないので、何とか直してもう少し乗ってあげたいんです!」
そんな持ち主さんの気持ちに心打たれて、何とか直して差し上げたいという想いで、メーカーに問い合わせて、同車種のフロントフォークを送って頂いたんですよ。
当然ハンドルロックが付いているタイプである事も付け加えて。
なぜならブリヂストンのような大手でさえ、フロントフォークのみの発注となると、補修用として新たに塗装してからの発送となる為、こちらも注文の際は一切のミスが許されないのであります。
ハンドルロックが付くタイプは付かないものに対してフォークコラムが長めでないとならない。
コラムとは・・・
これはロードバイク用のフロントフォークの写真ですが、丸で囲っている部位毎に呼び名があるんです。
このコラムはフレームサイズや、乗る方のハンドル高の好みに合わせて長さをカットするものなんですけど(完成車においてはメーカーの規定による)、ママチャリって言うのはそもそもサイズが存在しない乗り物なんです。
タイヤ(ホイール)径のインチによるサイズは存在しても、同じ自転車でフレームサイズが異なる物は基本的に作られていないのです。(部品の規格が統一されている関係で)
なのでメーカーさんでは、フロントフォークを下請け会社に作らせて、取り付けるフレームに合わせて既にコラム長をカットしたものを取り寄せて塗装するのであります。
なので同じフレーム及び、同じインチサイズに使うフォークであるのが第1条件!
次にハンドルロックを使用するグレードのフォークである事が第2条件!
この2つの条件を満たしたものでないと、絶対に取り付けができないし、そもそもトラブルを嫌うメーカー側が売ってくれないのです。
ちなみにコラムの長さを測って、それをメーカーに伝えた所でダメ!
メーカーで倉庫の在庫管理をする方々は、そういったメカニカルな応対ができない場合が多いので、コラム長を伝えた所で「そういった難しい事は判りかねます。」と返されるのが関の山。
なので車種コードと仕様の違いを伝えるしか手段が無くて・・・
そこまで念を押して注文しても、違うのが来ちゃうんだよ・・・これがまた。(涙)
「少なくとも5mm足りねぇよこれ・・・どうすりゃいいの?」
同じメーカーの同じ車種でも、年度が切り替わると微妙に仕様が変わる事もあって、それがコード番号さえも替わっていて、それこそ倉庫管理の方には判断が付かない場合など、たちまち打つ手無しになる事だってあります。
その時僕はたまたまフレーム形状は違うけど、使用部品の規格が同じ車種に着目して、恐らく姉妹車種であろう、その自転車のフロントフォークなら、きっと長さが合うんじゃないか?っていう直感を信じて、最悪自腹覚悟で購入したら・・・見事にドンピシャだった。
コラムの長さはやはり6mm程違っていたので、恐らくハンドルロックをヘッドパーツに挟む場合、少なくとも5~6mmのアドバンテージが必要になるって事を、この時確信したのであります。
くるぴたも例外ではなく、ヘッドパーツの間に噛ませる部品であるから、その分の余分な長さがないと、コラム先端をヘッドパーツのナットで締め込む事ができない。
そういった事情を知っているだけに、今回のようなニーズに対して素直に「ご用意できますよ!」とお答えする事ができないのですが・・・
本題に戻る・・・
「くるぴたをお付けしたい気持ちは判りますが、そんな簡単な話ではないんですよ。」
「ちゃんとネットで調べたんやから、取り付けできるっちゅう事は知っとるんや!部品さえ入れてくれたら自分で付けるから構わへんねん!」
この時点で僕はカチンときたのですが・・・
「フォークコラムの長さが足りないから無理だと申しているんです。どうしても取り付けるならフォークも交換しないといけません。」
「ちゃんと解かっとう言うとるやろ!付かんかったらその時ハンドル周りを換えたらいいんやろが?そんな事より部品は入るんか?入らんのか?」
このボケ・・・殴り倒したろか?
余りに人の話を聞かないで一方的に・・・それもやたら偉そうに言われるもので、僕の怒りのボルテージも上がってきたのですが・・・
まあいっか・・・こういう人は一度自分で失敗しないと納得しない類の人だから、気の済むようにさせるのもひとつか・・・。
そう思って・・・
「少々お待ち下さいね。在庫の確認もしないといけないので、品番とお値段をお調べします。」
そう言ってカタログで部品の価格を調べていたら、今度は・・・
「無いんかい?無かったらもうええわ!」
そう吐き捨てて、ぐちゃぐちゃ文句を言いながら帰っていってしまいました。
「今お調べしていますので・・・」と言いかけて、結局呼び止めなかったのは、話のキャッチボールのできない人にこれ以上関わってもデメリットしかない。
そう判断したからです。
もし呼び止めてその後もぐちゃぐちゃと文句を言われたら、本当に殴っていたかもしれないので(笑)
ネットで調べたか何かは知らないけどプロが難しいって言っているんだから、黙ってこっちの意見や理由も聞けよ!って話なんです。
実際にそんな事をネットで調べてできるものか・・・
僕も調べてみたんですけど、かなり問題ありです。
フォークの差し替えが最も簡単で安全だけど、丁度良いコラム長のフォークが見つかるかどうか保証できないし、結局挑戦した方の多くは、ヘッドチューブを切断して短くする事で、くるぴたを噛ませるスペースを確保しており・・・
それがどんなに問題かというと・・・
まずヘッドパーツを一度外す必要があるので、ヘッドワン抜きや玉圧し抜きといった取外し専用の工具と、ヘッドワンの圧入工具と玉圧し圧入ハンマーが必要。
更にヘッドチューブをカットした事により、ヘッドワンを圧入できない可能性がある(圧入する部分は内側をリーマーで削って整えている場合がほとんど)ので、ヘッドリーマーも買う必要性がある。
そして切断にディスクグラインダーを使用した場合、ヘッドチューブの上下の切断面を水平に整える必要性があるので、作業は慎重かつ手間がかかる。
特にヘッドチューブを横から見た時に、平行四辺形ではなく長方形にしないと、ヘッドパーツを圧入後に真っ直ぐフォークコラムが突き刺さらないでしょ?
何より誤って溶接箇所やダウンチューブにまで傷を入れてしまったら致命傷になり兼ねない!
特にラグ溶接のフレームだったらまず、切断なんて手段はやめるべきです。
そもそもフレームに加工を施す事事態が、自転車そのものの剛性バランスを変えてしまうものであり、当然の事ながらメーカーや自転車屋の保証できる範疇を、大幅に越えてしまう行為だって事を知らなければならない。
専用工具を揃えるだけで4~5万円かかって、その上ちょっとのミスでも致命傷。更にメーカー保証も得られない鉄くずになる・・・
そこまで考えれば、最初からくるぴたの付いた新しい自転車を買った方が、遥かに安い事くらい小学生にだって判る・・・
そんな結論にはならないだろうか?
世の中にはこんな便利な部品も存在する。
後付できるハンドルロック・・・
これなら自転車をバラす必要もなく、後から取り付けるだけ・・・簡単だ。
しかし固定力はそこまで強くないのと、フレーム(ヘッド周り)の形状(サイズ)次第では取り付けができない場合もある。
そんな装備が後から欲しくなるくらいなら、最初からケチらずに装備のしっかりした自転車を買って下さい。
仮に「俺、ロードやマウンテンも自分で弄っているから平気だよ!」って言う人がいたとして・・・
ママチャリの改造はロードバイクのそれとは次元が違うんです。
世間ではロードバイクが弄れるようになったら一人前(偉い)と勘違いしている人が、もしかしたらいるかも知れませんが・・・
ママチャリの方が精度の低さも相まって、応用力とギャンブルにまみれている事をご理解下さい。
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