2019年11月20日水曜日

今年初の奥穂高岳登山・・・その⑥~紅葉の涸沢と言えば渋滞!そして高齢登山者の多さに危険を感じる~


9:32

このMAPの点線の通り、穂高岳山荘から涸沢小屋まで下ってきた僕は、ここでおにぎり休憩を取る。

朝ご飯・・・お代わりとか遠慮して早く席を立ってしまったからなぁ~。

もうエネルギーが枯渇してお腹ペッコペコ!

用意していたペットボトルのポカリスエットも飲み切ってしまった。

ここで穂高岳山荘で仲良くなったご夫婦に声を掛けられる。

「あら?またお会いしましたね!その節は色々と教えて下さってありがとうございました。」

「あ~っ!お疲れ様です!こちらこそお世話になりました。結局こっちに下るルートしかまともに歩けそうもなかったので、僕も上高地を目指して歩きます。」

「その判断で正解だと思うよ。すごい風だったもんねぇ~。」

昨夜お二人が山荘での生活に戸惑っておられた際に声掛けして知っていたのですが、昨夜と違ってフル装備してヘルメットまで被っている僕に、よく気が付いて声を掛けてくれたなぁ~って感動しました。


そしてお二人は「我々は歩くのが遅いので、先に失礼致します!」って下山していきました。


僕は昨年の思い出に浸りつつ、バスの乗り換えについて調べたり・・・35分くらいここに滞在しました。


標高2700m以上はガスで全く見えません!


涸沢小屋の向こうに見えるザイテングラード取り付き付近までがギリギリ視認できる状況です。


こっちは北穂高岳方面・・・左が南稜で、右が東稜です。


何度も振り向いて目に焼き付ける。

ここまで来ると山への未練で、下山するのがもったいない気持ちになるのだ。


涸沢ヒュッテと前穂高岳の北尾根方面。

この日はパノラマコースで帰るっていう手段もあるのだけど・・・迷い中。


とりあえず涸沢カールへお辞儀をして下山。


今度はまた北穂高岳にも行きたい。

東稜をフリーで登るか・・・大キレットか・・・

またあの美味しいコーヒーとカレーライスが食べたいなぁ~。


ここまで下ってくるともう常念岳は見えなくなる。

遠くに見える稜線は東天井岳と横通岳・・・1ヶ月前にM籏君が歩いた稜線ですね。


そう・・・右手に見える屏風の頭と屏風の耳。

例えそこまで寄り道しなくても、手前の屏風のコルを右へ通過して山を下れば、新村橋まで抜ける事ができる『パノラマコース』には、最後まで行くか行かないかで悩みました。

しかし初めてのルートって時間も読めないし、一応パノラマコースは点線ルートなので、バリエーションとまでは言わないけど上級者向きルートに指定されている。

とりあえず今回は無難に横尾へ下山するルートで歩く。

標準コースタイムは2時間ジャストだ。

ところで・・・ちょっとここらの標準コースタイムは速過ぎに感じるのだけど?

ザイテンの下りも穂高岳山荘から涸沢小屋まで1時間半って、まんま標準コースタイムですから。

ザイテンでは仮に他の登山者がいなくてスピーディーに歩いていたとしても、僕の場合はあと15~20分くらいしかタイムを短縮できなかったんじゃないかなぁ?

だからここの標準コースタイムを目安にして登山計画を立てるっていうのは・・・一般の登山者にはかなり無謀なスケジュールになると思うんですよ。

横尾から涸沢小屋まで標準コースタイム3時間ですけど、昨年僕はまさにそのタイムで登っています。

それもかなりハードでした。

一般の人がそれをやったら脚がもたないか、心臓が破裂するかしますよ?

ちょっと見直しの必要性を『山渓』さんにも考えて頂きたいですよね。


ナナカマドの赤が鮮やかで美しい。


せっかくなので紅葉の写真を撮影しながら下山する。


致し方なくこっち方面へ下山したのですが、紅葉を観れたことで「来てよかった!」って気分になれました。

でなかったら、新穂高に帰る立場上、無駄に遠回りで、バス代も無駄、時間も無駄・・・無駄無駄尽くしで救いようのない状況でした。


「こういう遠回りも悪くないものだ!」と思えたことが、今回一番の戦利品かな。

今までの自分の生き方っていうのが、基本的に立ち止まることが大嫌いで、1分、1秒でも早く!そうやって急いだ結果、急いで頑張ったのに他の要因で失敗してふりだしに戻ったり、足止めを食らったりして、思うように事が進まなくてイライラする・・・そんな事の繰り返しみたいな生き方だったので、こういう瞬間に今までの自分の生き方って何だったんだろう?って悩んでみたりする。

急がば回れ・・・とは言うけれど、それって本当に正しいのか?って。

自分のこの性格は、幼少期のどんなエピソードが影響をもたらしたのか・・・なかなか思い当たる要素が見当たらないけど、そもそも幼稚園児の頃には既にもうせっかちで、理想通りの流れにならなかったらストレスを感じる性格になっていた。

例えば電車やバスに乗る時に、みんなが並んでいるのに割り込んで入ろうとする大人にストレスを感じて「みんながちゃんと並んでいるのに割り込むなんてズルいやろ!後ろに並べよ!」って堂々と注意をしていました。

稀にそれで逆切れした大人に殴られたり蹴られたり、ホームの下に蹴り落された事もあったけど、その際僕は普通の子供みたいに泣きじゃくった事が無い。自分の信念が正しいという絶対の確信があったので、むしろその大人が自分の非を認めて謝罪するまでは断固として許すことなく食ってかかっていた・・・何度殴り飛ばされても。

いい加減僕に関わるのを面倒に感じた大人は謝罪もせずに逃げるのだけど、「何逃げとんねん!俺みたいな子供に注意されて、大人として恥ずかしくないんか?素直に謝らんかいボケ~!」と、どこまでも追いかけて行き、祖母に「もういいから!よしなさい!」と制止されるまで止まらない子供だった。

これまでの人生で自分以外にそんな激しい幼稚園児を見た事が一度も無い。

単純に正義感が強すぎたのだけど、今思えば仮に相手が悪だったとしても、5~6歳の頃の僕は本当に『とんでも幼稚園児』だったと思う。

当時の新開地駅でたむろしていたホームレスたちには、「あのガキ見た目は女の子みたいやのに、怒らせたらしつこいから絶対に関わるなよ!」って狂犬扱いされて。

実際に5歳の頃、新開地駅の改札前でゴミを放置して立ち去ろうとしたのを注意して、それに逆切れしたホームレス3人に袋叩きにされた時などは、周辺にいた大人は駅員も含めて誰も助けてくれず。

この時はたまたま父親が仕事帰りに新開地駅で乗り換えるタイミングで(いつもは深夜に帰ってくる父親が珍しく早い帰りだったので奇跡的だった)、殴り飛ばされて3人に踏みつけられている僕を見つけ、助けに入ってくれたので九死に一生を得た。

「俺は正しい事を言っただけなのに、このまま見殺しにされるのか?」って、人生で初めて死を覚悟した体験です。

その時は悔しくて泣きそうだったけど、事情を聞いた父親に「お前子供のくせに根性あるんやなぁ。」って言われたのは嬉しかった。

4歳になる春から3年間、毎日1人で・・・

北区の花山から新開地まで神鉄を利用し、歩く時間も含めたら片道1時間半以上かけて幼稚園に通っていたので、その道中で随分と沢山の大人の動きや感情を観察して育ったと思います。

山を歩くとそういった昔の色々な思い出を振り返りながら、自分の生き方が今のままで本当に正しいのか、反省点があるとすればそれは何か?等と、冷静にあれこれ考える時間が作れるのです。

登山とは個人の力ではどうにもできない自然の力と向き合うので、結果的に自分自身とも素直に向き合う事が出来て・・・本当に面白いものですよ。


涸沢ヒュッテと涸沢小屋の分岐点です。


分岐から涸沢ヒュッテ方面へ少し登ったら、左にパノラマコースが伸びている。

写真でも左方向に水平に伸びる道が確認できる。


屏風のコルまではほとんど大きなアップダウンも無さそうで・・・

今更ながら「いいな・・・あっちの道。」って思ってみたり。(笑)


こちらのご夫婦は撮影しながらですけど歩くのがとても速くて、ちょっと僕と撮影のタイミングも被ってしまうので、早々に先に行かせて頂きました。


僕はここでもすれ違う登山者さんには涸沢までの残り時間を参考程度にお伝えしながら歩いています。

奥穂高岳まで登るっていう人もいたので、その場合は天候の事も伝えて「最悪今日は穂高岳山荘で様子を見て考えて下さいね!」ってアドバイスしながら・・・。


ナナカマドの実。

シアン化合物という毒素を含んでいるので、食べるのはお勧めしません。

しかしソルビン酸も多く含んでいるとかで、冬の寒い時期も腐らずに実を保つことができるらしい。

花言葉は「慎重」「賢明」「貴方を見守る」という意味を持っているらしく、登山者にとっても験の良い木である事が解ります。


涸沢カールから離れれば離れる程、寂しくなります。

次穂高に来るのはいつになるだろう?


いつの間にか横通岳も見えなくなっていました。

ここから本谷橋までは急斜面の石段が続きます。


ご年輩の方々も頑張って登っておられますが、向こうの方はリュックのベルトが切れてしまったみたいで、今必死に修復しているところです。

ちょっと荷物が重すぎたんじゃないでしょうか?


紅葉の美しい区間を抜けてしまいました。(涙)

この辺りで涸沢小屋で再会したご夫婦と再々会しました。

「あら?もう追いつかれちゃったの~?」って。

「ここから先は急な石段が続くので、落ち着いて歩いて下さいね!」って、お先に失礼させて頂きました。


もう朝一のバスで上高地にやってきた登山客が次々に登ってくる時間帯なので、徐々にすれ違う登山者も増えてくる。

急がないと渋滞にかち合ったら進めなくなるかも。(汗)


Sガレ・・・涸沢カールまでの最後の大休止ポイントですが、まだ誰も休憩していませんね。

っていうか昨年来た時はこんな看板無かったように思います。

Sガレから涸沢小屋までの登りは、僕の足で概ね35~40分くらいです。

標準コースタイムにするなら50~60分とした方が良いですね。


道も狭い箇所が多いので、団体さんとかが歩いていると譲ったりするだけで2~5分はタイムロスします。


道中でこんな大きな落石がありました。

これタイミング悪く直撃を食らっていたら、確実に死んでしまいますね。

こんな高齢者や初心者が歩くルートでさえ油断禁物なんです。


いよいよ涸沢カールの見える最後のポイントです。

登ってくる人にはここに来て「あと少しで涸沢に着くぞ!」って元気が回復する場所になりますが、下山する人にはただただ寂しくなる場所です。

左手のご婦人3人も落石の大きさに驚いていました。

一応ここはヘルメット着用区間なので、持っていない方は速やかに通過しましょう。


大キレット方面はガスって見えにくいですね。


ダケカンバと横尾尾根。


ここから本谷橋までが涸沢ルートの急な石段区間の中でも特に強烈な急斜面となります。

道は狭いし、景色に見とれて谷に落ちれば助からない高さです。


20名くらいのパーティーとすれ違った。

登山ツアーの方々だろうか?

若いインストラクターさんも何人かいるけど、大半がご年輩の方々。

女性は皆さん年齢を感じさせない若さがあって、「ここからあと1時間登れば涸沢カールに入りますよ!」って声を掛けたら、「あと1時間?じゃああと少しだね!」って元気に答えてくれてましたが、男性陣はかなりお疲れの方が多く・・・

ここで危うく大事故になるところでした。

写真のリュックを押してもらっている男性ですが、谷の景色を眺めているうちにフラッとバランスを崩して後ろにひっくり返ってしまったのです。

その時正面に僕がいて、男性の隣にインストラクターさんがいたので、2人で瞬時に男性の身体を掴まえ確保したので滑落は防ぐことができました。

あと大きなリュックサックのお陰で男性は岩に頭をぶつけることも無く無傷でした。

ホッとはしたけど、ここまで疲労が蓄積していたのでは危険なので、この先の広くなったところで休憩する事を勧めて見送りました。

インストラクターさんも責任の重い仕事を任されて大変です。

僕は登山ツアーというのはこういう怖さがあるので、旅行会社もむやみにプランを作って欲しくないと思ってしまう事があります。

10年前に北海道のトムラウシ山で起きた遭難事故の話を詳しく知って、一瞬の判断ミスが後に取り返しのつかない事態になるという恐ろしさを感じたので、登山はツアーでやるものではなく、身体づくりのトレーニングからセットで行なうものだと感じています。

96年にエベレストで起きた遭難事故は、ツアーとして登山を商業化したことによって発生した大事故の最たるもので、できる限り多くの参加者をピークに立たせたいという考えが無理を生じさせて、インストラクターまでもが帰らぬ人になった話。

登山ルートが渋滞で、スケジュールが大幅に狂う事も遭難の原因につながっていたり・・・。

涸沢カールの紅葉は日本の紅葉を語る上でも知っておくべき最高の紅葉だ。

それを見たさにツアーに参加するご年輩は少なくないだろう。

でもここは槍穂高界隈じゃ入門者向けルートかも知れないけど、上高地から歩き続ける時間を考えたらハイキングレベルで登れる場所じゃない。

ゆっくりでもいいから、せめて六甲山系全山縦走のハーフだけでも余裕で歩ける体力と脚が無かったら、とてもじゃないけど涸沢カールには辿り着けません。

しっかりと参加する人の基準を設けて、何だったらプレテストくらい実施した方が良い。

こんな安易な登山ツアーで滑落者リストの人数を増やしてしまったら、それはそれでこの山を好きな人にとっては悲しい事である。


本谷橋を過ぎてからの・・・この延々と続く石段が、どれほどダメージを倍増してくれるのか・・・それをわかって登りに来ているのか?


本谷橋では大休止中の登山者がたくさん寛いでいました。

まあここで休むよりも・・・もう少し登ってからの方が、気持ちの上では断然オススメですけどね。

僕はここまで登山者やグループに散々道を譲りながらゆっくり下ってきたので、涸沢小屋から1時間15分かかってしまいました。


ここを渡ったら、後は森の中をひたすら歩く退屈な区間である。


何だか小さな橋を設けてますね。

当然ですが水は綺麗です。(僕はここの水は飲みませんが・・・)


ここまで下ってきたら最早とっとと横尾に着かないかなぁ?という思いだけです。(笑)


道は非常に悪く足をこねくります。


間も無く屏風岩がどど~ん!と現れます。

これがまたいけない・・・

屏風岩が出てきたら横尾まであと少し?って気持ちになってしまうので、もう少し隠れていて欲しかった。(苦笑)


これは北穂高岳ですが、やはり山頂の方は雲で見えません。


ひたすら黙々とペースを上げて歩きました。

途中で十代~二十代の山ガールとも沢山すれ違いました。

「チィ~ッス!」と軽快な挨拶を返してくれたギャルもいたり、背が高くてスタイル抜群のモデルさんみたいな美女まで様々でしたが・・・

よく自転車に乗ったオッチャンが女性ライダーを見つけては、金魚の糞みたいに付きまとって声をかけては逃げられる・・・なんて話は国道2号線界隈では時々耳にする事もございますが、スピードの出ている自転車では実際に危険なので、むやみにナンパみたいな真似事はして欲しくないんです。

登山だったらお互いの顔もハッキリ見えるので、当然ナンパはダメですけど、挨拶して感じが良かったら仲良くなって・・・っていうのは有りじゃないかな?とも思う訳。

モテたいけどモテないサイクリストは自転車を辞めて登山でも始めりゃいいんじゃないか?って勝手に思えてしまったり・・・。(笑)

サイクリングもいいけど登山の爽やかさも本当に気持ちいいですよ!


ようやく横尾大橋に到着。

もうこの程度の階段を上るのさえ苦痛。

ザイテングラード以降のガレ場から蓄積した足の痛さが半端ないです。


結局横尾まで丁度2時間・・・標準コースタイムで下山してきました。

お腹は空いているけど・・・

横尾山荘のランチも美味しいけど・・・

せっかくこの時間帯に下山したからには徳澤園まで我慢だ!

では次回お楽しみに!

2019年11月17日日曜日

今年初の奥穂高岳登山・・・その⑤~苦渋の決断・・・逃げ道はたった一つだけ~

10月 7日(日)5時起床

部屋は恐ろしいほどの暴風で窓も壁も吹き飛ばされそうなくらい揺れている。

深夜の星空は何だったんだろう?って思えるくらいの天候の荒れようだった。

急いで朝食会場に向かう。

これまた既に5人が席についているテーブルに案内されたのですが、昨夜のテーブルよりは雰囲気が良さげ・・・

すぐに僕も食事の準備を整えさせて頂けた。

ただ・・・このテーブルを仕切っている人がどうも・・・

恐らくその人が最初にテーブルに着いた人なんでしょう。

お味噌汁の具がほとんど鍋に残ってなくて・・・

僕の隣の人なんて自分には麩が2個しか入っていないのに僕に3つも入れてくれて・・・

他の方々も軒並み2~3個しか入っていない。

それなのにテーブルを仕切っていた人のお椀にはワカメと麩が溢れんばかりに入っている。

「えっ?何なのこの人?」

周りの人たちの反応からも、恐らくみんなそのお味噌汁の具の独占については気付いているけど、敢えて我慢している・・・というのが僕にも伝わってきたので、僕も見ないふりをすることにした。

食事の席ではリーダーシップを取れる人が必要で、特にお一人様同士が集まるテーブルにおいてはその後の協調性も求められる。

その後者をお味噌汁一杯のせいで台無しにされてしまった。

この日のリーダーはあれこれ話しかけてくれるのですが、みんなお味噌汁の事で納得がいってないのが前面に出てしまうから、ものすごく対応が苦笑い気味。

仕方がないので僕が適当に回答して他の方々に飛び火しないように、一つ一つの話について全部結論を出して、その都度解決させる。

その間に皆さんには早々にご飯を食べて頂き退席して頂く。

最後に僕が「それではお先に失礼致します。」と立ち上がって退席。

そのリーダーだけが最後までお代わりしながら、席に残って食べ続けていた。

なんで朝からこんなつまらない神経を使わなきゃならないんだ?

みんなで楽しく会話して「それでは皆さん、今日も気をつけて山行を楽しみましょうね!」って同時に解散するのが理想じゃないか?

よりによってリーダーが具を独占するとか・・・

絶対にやっちゃいかんやろそれ?

っていうかそんな人が偉そうに仕切ったらあかんやろ?

いい歳したオッサンのする振る舞いじゃないですよ。

お陰で同席したみんなが嫌な気持ちで山行に臨まなきゃならないんだ!

朝から腹が立って仕方がない!!

だから今回は2食共に食事写真の撮影すらしなかったんです。

1秒でも早く席を立ちたかった。

そのくらい今回の食事の席は夕食も朝食も最低でした。


5時半に山荘から出て涸沢カール側のテラスを撮影・・・

一瞬でレンズに水滴がついてピントが狂う。

雨ではないが粒の大きな霧というか・・・

とにかく風が恐ろしく強い!

テラスで普通に秒速10m~15m程度の強風が吹いている。

これ・・・奥穂高岳なんて登れるのか?

そして間もなく雨も降りだしてきた。

「これは最悪のパターンじゃないか!」

とりあえず普通に歩いても穂高岳山荘からジャンダルム経由で西穂山荘までが7時間半くらい(標準コースタイムは8時間15分)かかる。

さらに西穂山荘から新穂高ロープウェイの駅までは全力で走れば30分で行ける。(標準コースタイムは1時間15分)

まあ実質、奥穂高岳~西穂山荘の道は下り基調なので危険個所を迷わずスピーディにクリアすれば、概ね6時間で歩ける予想なので、1時間は貯金を稼げると考えている。

つまり8時半までに穂高岳山荘を出発すれば、ギリギリ間に合う可能性がある。

というわけで、僕は更に余裕を持たせて7時半までにジャッジを下し、本日の行動及びルートを決めようと思いました。

最悪もう一泊する覚悟です。

焦って天候がこれ以上荒れないうちに・・・と判断した連中は、慌てて防寒着やレインウェアを羽織って奥穂高に登っていく。

取り付きの岩壁が大渋滞だ!

これでは途中で無理だと判断しても引き返せないから進むしかない。

「このコンディションであんなに登って・・・死人が出ても知らねぇぞ・・・。」

そう思いながら部屋に帰る。

僕の部屋は全員出発した後で、僕だけが残って・・・誰もいなくなった大部屋を独占して少し寝る。

前日のダメージがまだ残っていたのと、冷えていたのでもうしばらく身体を温めておきたかったのである。

7時に目を覚ましたので、そこからストレッチを開始!

少しは首や肩の凝りもマシになったので、出発の準備を整える。

ほとんどの登山者は出発していたが、ロビーにはまだ出発できずに待機している登山者も多い。

また山荘のスタッフの動きも慌ただしい。

恐らく今日は何かが起こっても不思議ではないという判断からだろう。


テラスに出た。時間は7:34である。

雨は落ち着いたが霧雨がすごい。

奥穂高取り付きの岩壁が、この距離で薄っすらとしか見えない状態である。

意を決してスタートする。


今年もお世話になった穂高岳山荘にお辞儀をしてお別れをする。


次は是非また楽しい時間を過ごすために訪れたい。


取り付きの壁を登り始めた。

この時点でもう・・・とてつもない突風が吹き荒れている。


穂高岳山荘の風力発電機も壊れて吹き飛ばされるんじゃないか?って思えるくらい根元から揺れている。

普通に恐い。

はしごの辺り(標高3000m)まで登ったのだけど、その時にカメラで撮影をしようと思ったら、とんでもない突風が吹いて飛ばされそうになった。

もう何か岩にしがみつかないと立っている事も困難なくらいの暴風。

何人がこのコンディションで奥穂高岳に登ったのかは知らない。

でもこれは絶対に撤退しないと危険なレベルだと感じました。

西穂高までの縦走?・・・この状況でそれを敢えてやる意味よ。

吊尾根経由で重太郎新道を下るルートですら、死亡フラグが立つレベルだと感じました。

とにかく寒い。

そしてメガネは10秒で前が見えなくなる。

霧雨が暴風で打ち付けられて・・・だからって10秒毎にメガネを拭きながら歩くなんてありえない。

両手をフリーにしたら今度は突風の餌食になる。

じゃあ眼鏡を外して歩いてみる?

いやいや、最悪それもありだとは思うけど、目が悪いと距離感が掴めない分、滑落のリスクが急激に跳ね上がる。

この状況で乱視の人間が裸眼で歩けるほど容易いルートじゃないんですよね・・・。

結論・・・一時撤退。

そして穂高岳山荘の裏に回って、昨日登った白出沢を覗き込む。


何も見えないし・・・更に強烈な突風が吹き上げてくる。

台風の真っ只中に飛び込むような状況。

風速は優しく見て秒速20m~30m程度。

メガネは3秒で真っ白になって、前が見えなくなる。

霧雨の影響に加えて冷気を含む突風でメガネの裏側が結露するのだ。

昨日の登りで多くの下山者が浮き石を踏み崩して、ルートのあちこちが荒れているのを僕は見ていた。

それだけに・・・この3m向こうが見えるかどうかの状況で、しかも暴風と霧雨に加えてメガネが見えなくなるって事を考えると、荷継沢まで一体何時間かけて下れるんだろう?

晴れていれば2時間で行けるところをこれまた4時間以上かかったらどうする?

確実に低体温症に陥るし、どこまで標高を下ればガスと突風の区間を抜けれるのかも判らない。

重太郎橋までこの天候だった場合、難易度と危険度がとんでもない事になる。

クマはともかく、このコンディションで突入するような簡単な道ではない。

「弱ったなぁ・・・やはり今日も穂高岳山荘に泊まって、明日まで待つか?」

しかし明日になれば安心して歩けるコンディションになる!って保証もどこにもない。

もしもこの天候が夜まで続いた場合・・・明日が晴れたとしても、朝は確実に冷え込んで道は凍結するだろう。(昨年は雪が降って積雪&凍結したし、ここはもういつ雪が降って積雪してもおかしくないシーズンに突入している)


これは2日後の10月9日に穂高岳山荘で撮影された写真。(この通り10月の槍穂高連峰はいつ雪が降ったり凍結してもおかしくない。)

ならば可能性を見つけて、今日動けるなら動くしかない。

そこで涸沢からザイテングラードを登ってきた紳士が僕に話しかけてきた。

「こんなに風が酷いなんて思いもよらなかったよ。やっぱり奥穂高岳は厳しいのかい?」

「ええ、死ぬ覚悟が無ければ行けないレベルですよ。試しに取り付きのハシゴ付近まで登ってきたらどうですか?きっとそこで判断できますよ。」って返した。

その紳士と同じく、僕の話を聞いていた屈強そうな登山者たちも、事実を確かめに奥穂高の取り付きに向かった。

結果全員引き返してきて、「こんなの絶対に登れませんよね?おっしゃった意味がよく解りました。」って・・・。

正直それでこの方々が登っていたら、負けず嫌いな僕のハートは死んでもいいから登れ!って思考にシフトしていたと思うけど、全員が僕の判断が正しいと肯定してしまったのだから、やはり登る選択肢は消すより他に仕方がない。

紳士は「涸沢岳だったら登れるだろうか?せっかくここまで来てピークに立てなかったらもったいないでしょう?」と言う。

「そうですね、涸沢岳なら登れます。ただし絶対にピークから涸沢カールを覗き込まないで下さい。白出沢から吹き上げる突風に吹かれたら、墜落する危険性があります。あと・・・そこから北穂高岳までの縦走路は、この天候で歩くのは自殺行為です。結局こちらに戻って来なければなりませんが、涸沢岳からの下りは白出沢から吹き上げる突風に向かって歩く形になるので、メガネが役に立たなくなりますからくれぐれも注意して下さい!涸沢岳のガレ場は滑り(崩れ)やすいですので。」

そうアドバイスしながら僕の腹は決まっていた!


ザイテングラードを下る事にしたのです。

色々とルートを分析していて、涸沢カール側の風が穏やかだったのが決定打です。

しかもザイテンから登ってきた人の話だと、ザイテンの取り付きから下は霧が晴れているらしい。

時間的にもその状況が急変するにはまだ早いとみて、涸沢カールに下山する価値はあると判断したのです。

穂高岳山荘を8:02にスタート!

風は比較的穏やかだけど、霧は深い・・・


2分も進んで振り向いたら、もう穂高岳山荘が見えなくなっていた。


いよいよ本格的な下りに差し掛かりました。

僕はザイテングラードを歩くのが初めてなんです。

穂高連峰のルート内では初心者向きのルートに位置付けられていますが、滑落者は毎年出ています。

落石にも注意しないといけません。

自分の蹴ったり踏んだりした石や岩が、転がって落石となり誰かを傷つける可能性だってあるのです。

ガレ場や岩場では人が発生させる落石に注意するだけではなく、落石を発生させない歩き方を自分自身ができるかどうかも、この地を歩く資格の一つとして身につけておかないといけません。


ルートが判りますか?

遠くの方に丸印のペイントがあります。

霧で見えにくい事も多いので、冷静にルートファインディングをできる事も、ここでは必須の資格です。


僕は想像していた以上にザイテングラードが楽過ぎて、スキップしそうなくらい・・・歩けば歩くほど安心しながら進んでいます。


今日すれ違う人たちは明るくて元気な方ばかりです!

こっちも勇気づけられます。

できるだけ脅さない程度に、山頂方面の情報を皆さんにお伝えしながら下る。

「穂高岳山荘まではあとどのくらい?」

「あと20分あれば確実に到着かな?」

「え~っ!だいぶ前にあと20分って書いてあったんやけど?」

「ああ、多分それ・・・『あと少し詐欺』ってやつですよ!」

「えぇ~っ!そうだったの~?」

そんな会話も楽しいものであります。


確かにそんな情報を書いているところがあるってDVDで観た事がある。


行ってはいけない方向には×印のペイントがある。

この先を下って振り向くと・・・


あった!「ホタカ小や20分」ははは・・・気休めでしょ?(笑)

だって僕がここまで下って来るのに20分かかっているのですから、ここからだと登りは30分ってところでしょうか?

書き直してあげたいくらい。


そろそろハイマツなんかも出てきたので・・・

ライチョウやオコジョに会えないかな?


ガスっている時や天気の悪い日は遭遇しやすいものなんです。


すれ違う人たちはみんな山頂の天気を心配しながら登ってきます。

ガッカリさせて申し訳ない想いで、自分がここを下るに至った経緯を伝える。

彼は最悪穂高岳山荘に泊まって、明日にでも山頂を目指すと言っていました。

仮に明日の朝に凍結しても出発時間を遅らせれば、山頂までなら往復できるだろう。


ここからザイテングラードの核心部!

といっても鉄バシゴと鎖の区間がちょっと続く程度。


鎖なんて要るか?っていうレベルなので、初めて奥穂高岳に登る人は絶対にザイテンルートを勧めます!

超楽ちんルートです。



だがしかし!

言った矢先にルートを見失ったカップルを発見!

丁度鎖区間の終わりですが、きっと×印や矢印のペイントに気付いていない様子。

「ルートはそっちじゃないよ!こっち!こっち!」

「えっ?そうなんですか?あっ!ホントだ。危なかった~!ありがとうございます!助かりました~!」

「お気をつけて!」


2人が無事に鎖場を巻いて登るのを見送ってから先に進む。


この先またロープ区間があります。


ロープ・・・要るのか?

スキップしながらでも下れそうだ。


おっ!本当だガスが晴れてきた!

涸沢カール・・・おはようございます!


ライチョウさ~ん!いませんか~?


会いたいよ~!

願わくば小脇に抱えて持ち去りたいよ~!(笑)


こういうところに棲んでいそうなのになぁ~。(悲)


下の大岩の上で休憩している人がいるなぁ~。

っていうかそろそろザイテンも終わりかな?


どうやら間違いなさそうだ!


振り返ればザイテン終了!

お疲れさまでした!

穂高岳山荘からここまで48分。

すれ違う登山者全てとくっちゃべりながら・・・って考えたらチョロくない?

そうなんです。ザイテングラードは本当に楽なんです。

問題はここから・・・


ザイテン取り付きで90度左を向きます!


ここから涸沢小屋(涸沢ヒュッテ)まではひたすらガレ場のオンパレード!

これが一番疲れるのである。


相変わらずライチョウさんもオコジョちゃんも出てこないし・・・


いや・・・本当に持って帰ったりしないからさぁ~、出てきておくれよ!

とか思いながらハイマツをくまなくチェックして歩く。


ガレ場・・・足が沈み込んで歩きにくい!たまに足首をひねるから歩きにくい!

結構地味にダメージが蓄積されます。


長いな・・・ガレ場。

もう・・・嫌過ぎる。

僕が今までこのルートを見向きもしなかった理由はこれ・・・ガレ場。

今日は仕方がないから歩くけど・・・

でも初心者が歩くのは安全性を考慮して、やっぱりこのルートが一番かな。


ザイテン取り付きから上がガスって見えません。


こんなガレ場をひたすら歩いてきたら、ホンマに嫌気が差してきますよ。

砂利にして欲しいくらい。


あとどれだけ歩けばいいの?


屏風の頭が近くなってきた。

でも涸沢ヒュッテとの高低差・・・まだ2~300mくらい残ってるやろ?


やっと分岐が出てきた!

真っ直ぐ左手に下れば涸沢小屋で、右手に軌道を変えればお花畑経由で涸沢ヒュッテ。


これが今下ってきたガレ場。


お花畑までは更なるガレ場・・・

絶対に行きたくない!(笑)


僕は迷わず涸沢小屋方面を進む。

いくらかは整備されていて、こちらの方が歩きやすい。


あの岩山の下に涸沢小屋がある。


上を見上げたら・・・あの岩は涸沢槍と亀石の真下くらいに見える大岩です。


うお~っ!

これは来て正解だったかも!

怪我の功名で紅葉散策ができるじゃないか!


前穂北尾根・・・前から気になっていたんだけど、北尾根ってどこから登るんだ?

って思ったので、帰ってから調べたら、この写真の一番右から真っ直ぐあのガレ場を登って行ったところが、『5・6のコル』という場所(5峰と6峰の間の鞍部の事)があって、そこから稜線上に沿って前穂高岳山頂まで登るらしい。

白出沢並みの強烈な急斜面のガレ場である。


こっちのルート・・・実は失敗で、ほぼ石段で一気に標高を下る感じ。

足の親指と母指球周り、あと膝へのダメージが強烈!

ダケカンバの木が無かったらやってられない感じ。


向こうは北穂高岳に登る南稜と東稜方面です。


ここのダケカンバはよく働いていますね。

木の色が変わっている箇所が判るかと思います。

これって大勢の登山者が身体を支えるために掴んだ痕なんです。

だから僕はここに限らず、山で木に助けられたり、こんな木を見る度に、木をさすりながら・・・或いは手を合わせて感謝の気持ちとお礼をしながら歩く習慣を心掛けています。

多くの登山者の安全をいつも見守ってくれている木なので、感謝の気持ちを持って接して頂きたい。


ようやく涸沢小屋が見えてきた。

もう膝が笑っちゃって・・・(笑)


涸沢カール・・・綺麗。

あの雪渓の左手から登ると『5・6のコル』です。


やっと着いたよ涸沢小屋!

ここまで1時間30分かかりました。

しかし困ったものです。

僕の車は新穂高の鍋平にあるのですから。(汗)

脱出ルートがこのルートしかなかったとは言え、これから上高地まで歩くのは骨が折れます。

果たして今日中に無事に車まで辿り着くのでしょうか?

では次回へ続きます!