「とりあえずこの辺しか走らへんし、乗れたら何でもええねん。」
「えっ?何かおかしいところありますか?何も気にせんと乗ってましたけど・・・。」
自転車屋をしていて、一番お客様の口から聞きたくない言葉です。
①自分自身の命に無頓着である。
②自転車を軽視した考え方。
③自分の持ち物に対する愛着や愛情の欠如。
そんな価値観で大人になってしまった人に、どんな言葉をかけても心には響かないのかも知れません。
それでも当店を利用するお客様の安全を、第一に優先してサービスをする事を仕事の絶対条件にしていますので・・・
そういう心無い言葉を発さないで欲しいと願う毎日です。
そんなある日、しばらく乗っていないうちに後輪の回転が悪くなって、ブレーキも効かない状態になったという自転車が入院してきました。
明らかにハブベアリングがゴリゴリ言い出していたのでオーバーホール!
このようにハブのシャフトを抜いたらボールベアリングが出てきます。
特にトルクのかかるドライブ側のベアリングが、傷だらけで錆びていました。
しかし大きな欠損や変形まではいっていないので、研磨すれば辛うじて元に戻るレベルです。
ローラーブレーキも汚れが酷くて、中の専用グリスも効かなくなっているのでしょう。
これも内部を綺麗に洗浄して新しいグリスを注入すれば、再び新車時の性能に戻せるのです。
ハブボディの左側・・・汚れは目立ちますが、洗浄すればまだまだ使えます。
ハブボディのドライブ側は錆びたベアリングのお陰で、残ったグリスも茶色く濁っています。
これも洗浄したら綺麗にはなります。
まずは・・・
左側・・・
次にドライブ側・・・
綺麗に汚れを吹き飛ばしたあと、グリスをたっぷり塗ってベアリングとシャフトを組み付けるだけです。
ローラーブレーキ本体もベアリングもピカピカに洗浄・・・及び研磨を施したので、これで回転性能も随分と生き返る事でしょう。
通常回転部分にはリチウム系グリスやシリコングリスを使うのですが、モリブデングリスを使うお店もあるでしょう。
正直ママチャリレベルの頻度で使用するなら、モリブデングリスでも十分かも知れません。
実はレース用のホイールとか、回転を究極に良くしたい場合、実はモリブデングリスって有効なんです。
最近はシールドベアリングなど、デリケートで機密性の高いベアリングを使用している製品が多いのでモリブデングリスの活躍は減った気もしますが、僕が学生の頃はシマノのハブをオーバーホールしてモリブデングリスにシリコンとチェーンソーオイルを添加して組み直して走っていました。
めちゃくちゃ速く走れるようになりましたよ。
ただし流れ落ちる頻度が高いので、マメにオーバーホールできる人向きのチューニングです。
しかし今回は一度ゴリゴリになったベアリングを、当分メンテナンスをしなくても長くスムーズに回転させたいっていう要望があったので、ウレア系グリスを耐久性のあるデュラエースグリスに添加して使うことにしました。
ホイールの回転は・・・
一度ゴリゴリになったベアリングなので、滑らかな回転とまではいかないものの、劇的に回復はしました。
ブレーキもかっちり効いて、ついでに振れ取りもしたので、お客様も「ここまで生まれ変わるんだ?」と驚いて乗って帰られました。
そしてまたある日・・・
こんな自転車の前輪のガタツキを直して欲しいとご依頼がありました。
明らかに2人乗りしてるやろ?ってバレバレの自転車です。
サドルの青錆びから見ても判るとおり、自転車への愛は一切感じられません。
単なる移動手段なんでしょう。
当店に持ってきたのも本人ではなくお母さんでした。
本人だったら2人乗りの件も含めて、2時間くらい正座させて説教したい気分であります。
シャフトとベアリングの洗浄中・・・
凄まじい汚れと、錆びた鉄粉が沈殿しているのが判ります。
これは再生不可レベルですね。
何しろ・・・
ハブボディのカップの中がボコボコに変形しております。
反対側は辛うじて使えるレベル。
変形が酷い方のカップは外側にも亀裂が・・・
「こ・・・これ、本当に直して乗るの?」
しかしお客様の言い分として、とりあえずベアリングの交換とかもしなくていいので、乗れるようにして欲しいとの事。
これでまた駄目になったら次は自転車を買い換えるから、今回だけはできるだけ安く修理して欲しいって頼まれました。
危険度指数はかなり高いと思いますが・・・
しかしまあお客様が自己責任で乗りますって言うのですから仕方ありません!
ベアリングの1つは完全に砕け散っていたので、左右11個ずつあるベアリングが21個しかありません。
しかも既にベアリングの面影も無い塊が、半数近くあります。
それでも使える玉と使えない玉を交互に入れれば、何とか走れるようにはなります。
念の為に言っておきます。
通常ならこれはアウトです!
完全にアウトです!アウト~っ!
ベアリングも死んでいますが、ハブボディも死にかけています。
研磨でどうにかできる段階を遥かに超えています!
是非ここまでいったなら、新しいホイールへの換装か、新車へのお乗り換えをお勧めします。
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