9月 6日 6時半過ぎに大天荘のテント場を出発したM籏君。
右手に槍穂高連峰を眺めながら、まずは常念岳を目指す!
槍穂高連峰の手前に見える尾根道は赤岩岳、西岳経由で東鎌尾根につながる喜作新道(表銀座後半)です。
丁度写真の槍ヶ岳の真下くらいに確認できる喜作新道の稜線の窪みの辺りが『貧乏沢のコル』というポイントで、そこから貧乏沢のガレ場を天上沢まで下り・・・
天上沢を少し逆流して登った右手に北鎌沢という急峻な沢がある。
その右俣を登ったところが、写真の右端で切れてしまった辺りにある、『北鎌沢のコル』であり、このルートで唯一ビバークできるスペースがある。
貧乏沢の下りで2時間、北鎌沢の上りで3時間・・・暗いうちには歩けないルートなので、明るくなってきてから出発したとして、北鎌沢のコル到着が10時半~11時。
そこから北鎌尾根を槍ヶ岳まで登るのに、早くても5時間半はかかる見込みなので、ビバークなしで1日で登るのは基本的に無謀!
『新穂高~白出沢~奥穂高岳~ジャンダルム~西穂高岳~新穂高ロープウェイ』を一日で歩けるくらいのレベルの人じゃなかったら絶対に無理なルートです。
M籏君・・・伝説的登山家『加藤文太郎』さんの『単独行』や、彼の伝記的作品『孤高の人』とかを読んだんじゃないかと思われますが・・・
それで加藤文太郎さんが最期に遭難死した北鎌尾根に憧れを抱いてしまったのかな?
加藤文太郎さんは厳冬期の北アルプス縦走を単独行していたような人で、今でもそんなチャレンジに憧れを抱いて真冬の槍ヶ岳を登る登山者はいます。
ただ槍ヶ岳って北アルプスのすべての風が集まるような場所なので、天候が荒れたら地獄以外の何ものでもない訳。
そんな冬の槍ヶ岳で遭難死亡事故があったら、「ああ、加藤文太郎さんのファンだったんだろうなぁ。」って思ってしまうほど。
加藤文太郎さんは兵庫県出身で、六甲山系全山縦走を最初に始めた人としても知られています。
そういう意味でもM籏君が影響されるのは解らなくもないかなぁ~って。
北鎌尾根では他にも・・・北穂高岳の松濤岩の名前で知られる松濤明さんも厳冬期に遭難死しています。
『風雪のビバーク』という作品に、彼が遭難死する直前に書いた遺書が紹介されていますが、なぜそんな厳しい時期にそんなところに登るんだ?って誰もが思うはずです。
僕もそうでしたが、何かに行き詰って心が乱れている時だからこそ、そういうチャレンジをしたくなった・・・というのはあります。
M籏君もそういう感覚を「なぜそんな気持ちになったのか?」を理解したいと感じたんじゃないでしょうか?
こういう岩のゴロゴロした道は歩き辛いんですよ。
僕がガレ場の次に嫌いな道ですね。
ここからでも涸沢ヒュッテや北穂高小屋が確認できますね。
奥穂高岳の右にジャンダルムも見えています。
富士山の右には南アルプスの峰々がずらっと並んでいます。
これは浅間山方面です。
M籏君の陰からも荷物の大きさが判りますね!
それにしても写真のセンスが年々磨かれています。
正面は・・・まもなく東天井岳でしょうか?
右隣に常念岳が顔を覗かせています。その手前右下に下っている尾根は『二ノ俣尾根』と思われます。
これはきっと東天井岳の山頂を時計逆回りに巻いているところだと思われます。
この先で左に巻きます。
真っ直ぐ行くと二ノ俣尾根で、写真右に遠く見えるのは前穂高岳とその北尾根です。
巻いたところで南南東を確認。
横通岳と常念岳、そして横通岳の右手に富士山が見えています。
常念岳の山頂まで延びる稜線の道が、ここからでもくっきりと判りますね!
あの常念岳の登りがまた結構な急登でしんどいのです。
左手に登れば東天井岳山頂に登れますが、スルーしてトラバース道を歩きます。
北アルプスは東側斜面がえぐれた様に切れ落ちている箇所が多く、足場が崩れたりして滑落されても困るし、山の形を崩さないように保護しないといけないので、基本的にはエッジの利いた稜線・・・っていうよりは、少しなだらかな斜面を横切るようにトラバースさせる道の方が多いです。
常念小屋までは緩やかな下り基調の登山道なので、もうしばらくは気持ちよく歩けます。
しかしハイマツ林を歩いているのにライチョウさんが一向に姿を現しませんね?
右手に東天井岳で、正面の崩れた尾根が二ノ俣尾根です。
ねっ?横通岳手前のピークは東斜面が真っ直ぐ切れ落ちて、断崖絶壁になっているでしょ?
ここは初心者も安心して歩けるルートを整備しているので、あえて山頂(稜線)を歩かなくたっていいのです。
右にトラバース道が見えるでしょ?
横通岳は山頂へ続く道もあるので、手前で好きな方を選べます。
浅間山方面・・・この尾根の左斜面を下ったところはまだ中房川流域です。
結構歩いたつもりでも、まだ同じエリアから脱出できていなかったりするものなのです。
槍穂高連峰の見え方は少しずつ変わってきました。
さっきまで北穂高岳の後ろに重なって見えていた涸沢岳が判るようになり、穂高岳山荘も見えています。
大キレットも『長谷川ピーク』や『飛騨泣き』といった難所が、ここからでもハッキリと確認できます。
逆にジャンダルムは奥穂高岳の後ろに隠れてしまいました。
M籏君も言っていましたが、「槍穂高連峰は存在感が別格でした。」との事。
どんな角度から、何度見てもカッコいいし、美しいし、恐ろしくもある。
「そんな所に登る事なんて生涯ありえない!」なんて言っている人がいるなら、是非その考え方を改めてもらいたいと思う。
もちろん体力や技術を磨かない事には、あのピークに辿り着くこともできないでしょう。
でもあそこに行けば、人間という存在がちっぽけである事を改めて思い知らされ、自然の美しさや壮大さに感動する事間違いなし!
絶対に人生観が変わる!
M籏君も僕のその言葉の意味を感じながら、何度も槍穂高連峰を見ながら歩いたと思うんですよ。
これは今M籏君が歩いてきたルートです。
東天井岳の向こうに大天井岳が見えています。
拡大すると下り基調のトラバース道も確認できます。
今横通岳直下をトラバース中!
こんな場所でも滑落したらひとたまりもありません。
常念岳が間近に迫ってきました!
いよいよこの日最大の難関です。
ここから常念小屋まで約250mの標高差を下って、そこから常念岳山頂まで約400mも登り返さないといけません。
常念小屋を確認!
「あそこまで下って、またあんな所まで登るのか?」ここでは誰もがそう思う事でしょう。
見つけられますか?
ライチョウには会えなかったけど、イワヒバリです。
穂高岳山荘の周辺では足元まで近付いてきます。
万が一下山を余儀なくされた場合は、ここからJRの穂高駅や柏矢町駅、豊科駅方面へ下山することができます。(下山時の各駅までの所要時間は概ね6時間程度)
こう見ると常念岳山頂までの道はなだらかでしんどくなさそうに見えますが、見た目以上に傾斜は急です。
奥穂高岳の白出沢よりはマシだと思うけど、こういうガレ場が危険で面倒くさいのです。
「ここの上りは合戦尾根並みに疲れました。」とM籏君も言っていました。
9時27分・・・常念岳山頂に到着。
標準コースタイム3時間40分の所を、写真撮影を楽しみながら3時間弱で来ているので、十分なスピードだと思います。
それを聞いて「この日のうちに蝶ヶ岳から徳澤へ下山して、徳澤で宿泊したら翌日は上高地でのんびり観光を楽しめるよ。」とアドバイス。
常念岳山頂からは涸沢小屋も確認できます。
昨年の10月 1日に僕が涸沢小屋に到着した際、この常念岳を見ながら美味しい生ビールを飲んだのが懐かしい。
そしてこれはこの日M籏君が歩いてきた道程の全景です。
今朝まで宿泊した大天荘まで見渡せます。
ここからは下りがメインなのでそこまではしんどくありませんが・・・
しかし一気に400mも標高を下るのは膝への負担が半端ないです。
こんなガレ場も通るので、浮き石を踏まないように注意しないと危険です。
ペイントマークを見逃さないよう、安全なルートを確保しましょう!
標高は2500mを超えるというのに、蝶が岳付近からは針葉樹林の中を歩きます。
後立山連峰でも同じような箇所があったりしますが、通常標高2350m付近からが森林限界とされていますが、関係なしに森が存在しています。
ここでまだ中間地点にも届いていません。
小刻みにアップダウンが続きます!
写真の尖ったピークは蝶槍と思われるので、山頂はその向こうにあるはずです。
ここら辺のルート上には池塘が所々にあって、何かしら生物が繁殖していたりします。
随分と歩きましたね。
蝶槍から槍ヶ岳を望む。
蝶ヶ岳ヒュッテまであと1.6kmです。
ここからは森ではなく開けた稜線歩きです。
疲れが溜まってくると、高山植物に癒されようと写真で撮ってしまうものなのです。(笑)
蝶ヶ岳の山頂と、手前にテント場が見えてきました。
ヒュッテもあの雲に隠れた場所にあるはずです。
ここで右に進めば涸沢カールの入口である横尾へ下山できます。
時間は12時半・・・M籏君次第では、ここから4時間半かけて涸沢カールまで行く事もギリギリ可能。(明るいうちに危険個所は通過できるので)
選択肢は色々あるけど・・・
でも当初の予定通り蝶ヶ岳に到着!
山頂で記念撮影!
時間はまだ13時を回ったばかり・・・
僕のアドバイス通り徳澤に下山するには十分な時間があります。
しかしM籏君は「今日はもうこれ以上歩きたくないので、予定通りここでテント泊します。」との事でした。
若いのに慎重なM籏君!
そういうところは僕の若い頃とは違って大人びています。
そして少し遅いお昼ご飯。
マルタイのラーメンに餅!良い組み合わせ!・・・って思ったら氷結!?
そうか!M籏君・・・もう20歳だから飲めるんだった!
M籏君とチューハイ・・・このギャップがまた面白いですね。(笑)
標高2900m付近より上は見えません。(北穂高岳のみ辛うじて見えています)
まるで大魔王が棲む要塞のようですね。
ものすごい威圧感!
M籏君が下山しないでここでもう一泊するのって、グレートトラバース3の田中陽希さんの動機と同じだったりするのかな?
「この景色を見納めにするのは勿体ない!」って。
これから夕方~夜にかけて、そしてまた明日の朝・・・違う角度からの槍穂高の雄姿を満喫してから下山したい。
そういう気持ちもあったのかな?
松本の空は晴れているみたいです。
天気が荒れないと良いのですが・・・。
それでは次回、最終回をお楽しみに!
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